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「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」日野行介 岩波新書
驚くべき内容の本である。これが事実なのだとしたら(というか、どう考えても本当なのだが)、この国は、県は、国民を守ろうという意思が無いのだろうかと絶望的な気持ちになる。一番大事なことは何なのか。私たちは、それを忘れてはいけない。
長期間の低線量被曝の健康への影響は、原発事故に関わる問題の最も大きな問題だ。福島に住む人々、とりわけ子どもたちとその保護者は、そのことが常に最も大きな心配事になっているのは間違いがない。
原発事故による健康被害を調べるために福島県が実施しているのが県民健康管理調査だ。調査に関する議論は、できる限りの透明性の確保が必要であり、適正な手続きに基づいて行われるべきなのはいうまでもない。
ところが、検討委員会は一年半もの間、報道機関や一般に公開する検討委員会の会合を開く直前に秘密会を開き、「どこまで検査データを公表するか」「どのように説明すれば騒ぎにならないか」「見つかった甲状腺がんと被曝の因果関係はないと説明する」など、事前に公表方法や評価を定め、シナリオを作り、さらには議事録の改鼠まで行っていた。
この本は、その事実をどのように掴み報道に至ったのかを明らかにするともに、この問題の本質を解き明かそうとしている。ここには、たくさんの、知られざる恐ろしい事実が書かれている。
ウエブ上で事故直後の自らの行動を打ちこむだけで、どれだけ外部被曝をしたかが推計できるシステムを放医研が開発し、実施を予告した。にもかかわらず、ある圧力によってこれは中止に追い込まれた。また、WBC(ホールボディカウンター)よりも放射性物質を検出できる最低値の低い 尿検査が、何故か健康調査においては排除されていた。その他にも、乳歯を保存して被曝量を測定するなどの画期的な案も退け、できるだけハードルの高い検査方法だけが選択された。つまり、心配はないという検査結果が出そうなやり方だけが選ばれ、実施されたのだ。
さらに、基本調査の結果により必要と判断された人を対象に、さらに健康診査を行うと定めながら、どんな人が「基本調査の結果により必要と判断された人」なのかの基準は決められていない。だから、誰ひとりとして健康診査を受けた人はいないのである。結局、県民健康管理調査はある種のアリバイ作りのために行われたというのが最も正しい捉え方なのかもしれない。
本書の最後の方では、県民健康管理調査の検討委員会の座長を務めていた県立医大の山下副学長が、記者に、以前に取材で答えたことは嘘だったのか、と質問されて「まあ、端的に言えば。」とあっさり肯定している。こんな人物が中心となっていたのか・・・と愕然とする。
被曝による健康被害は、これから十年、二十年書けて追跡調査していくべき問題である。私たちの住む国が、国民が安心して生きていける場所かどうか、国が、国民を守る意志を持っているかが問われる問題である。この本に書かれた事実を風化させてはならない。これからを、私たちは見据えていかなければならない。だから、どうか少しでも多くの人に、この本を読んでほしい。
図書館に行けば、きっとあるから。
2013/10/28