知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~

知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~

2021年7月24日

録画しておいたNHKスペシャル「知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~」を見た。見よう見ようと思いながら、気が重かったのだが、思い切って見たら、やはりたいへんな内容であった。

放射性物質の含まれる水を海に放出した際に、テレビで「専門家」が、これは拡散し、相当程度希釈されるので海洋資源に影響は少ない、というようなことを話しているのを、私は見た。私たちは、水俣病から何を学んだのか、と私はその時、思った。生態系の中で、化学物質は濃縮されていく。30年以上も前に、有吉佐和子が「複合汚染」で指摘したではないか。海に放出された放射性物質は、プランクトンや小魚から、大きな魚へと食物連鎖される中で、必ず高度に濃縮されていく。素人である私でさえ、直感的にそう考えたものだ。そして、それは当たっていた。

原発直下の海底土の放射性セシウムの値は、4520ベクレル/kgだ。拡散せずに、底に溜まったままでいる。希釈なんて、されていないのだ。

ところで、原発から120キロも離れたひたちなか市の沖でも、海底土は304ベクレル/kgと、原発20キロ圏内の値とほぼ変わらないことがわかった。海底土にいるゴカイが130ベクレル/kg、それを食べるナメタガレイは316ベクレル/kg。海底土をゴカイが食べ、そのゴカイをナメタガレイが食べる中で、放射性セシウムは濃縮されていくのだ。

意外な場所からも、高度の放射性セシウムが検出された。原発から遠く離れた群馬県の赤城大沼という湖で取れたワカサギが、640ベクレル/kgだったのだ。プランクトンが296ベクレル/kg。湖底土はなんと950ベクレル/kgで、しかも、深さ20センチまでセシウムの含まれる泥が層をなしていた。山に囲まれたカルデラ湖である赤城大沼は、出口が少ないために、セシウムがどんどん沈殿していったのだ。

チェルノブイリの調査研究によると、湖の放射性セシウムの値は、事故後2~3年間は下がり続けるが、その後はなかなか数値が下がらなくなるという。生態系に入り込んだセシウムは、半減期を迎えるまで、循環し続けて、希釈されずに残るのだ。

ということは、まだ調査されていないいくつもの湖沼に、実は放射性物質が溜まりこんでいる可能性があるということだ。

東京湾にも、原発20キロ圏内とほぼ同じ数値を持つホットスポットが存在した。それどころか、江戸川や荒川の河口から8キロ程度のところに1623ベクレル/kgという高い値を示すホットスポットが見つかったのだ。淡水と塩水が混じり合う場所で、セシウムと塩分が混じり合って団子状となり、川底に沈殿した結果だという。このセシウムは、年間5キロほどのスピードで海へと進む。その結果、東京湾の汚染は2年2ヶ月後にピークを迎えると見られるという。

関東地方に降り注いだ放射性物質は、雨に洗われ、流され、最終的には東京湾に流れ込む。時間をかけて、徐々にそれは集まる。出入り口の狭い東京湾に、それは沈殿し、とどまり続けるだろう。海の汚染は、むしろ、まだ始まったばかりであり、これから増大していく問題なのだ。

原発問題は一定の収束を見た、といったのは誰だっけ。どうして、そんなことが宣言できるのか、私にはわからない。問題はこれからむしろ深まっていく。そのことを、私たちは忘れてはならない。

2012/1/23