「世界」八月号を読む その2

「世界」八月号を読む その2

2021年7月24日

「世界」八月号には、伊東光晴氏の論文だけではなく、ほかにも興味深い記事がいくつも載っている。そのひとつが、「『放射能汚染地図』から始まる未来  ポスト・フクシマ取材記」七沢潔 である。

原発関連のドキュメンタリーでは、NHKが良く頑張っている、と私は感じる。電力会社のCMのくびきから自由であるからだろう。公共放送であることの強みを、今こそが、活かすべき時だ。

日頃、(Jさま以外は)あまりテレビを見ない私もNHKのETV特集「原発災害の地にて」「同 ネットワークでつくる放射能汚染地図」は録画して見た。他のメディアが声を揃えて、安心だ安全だと言い続けている時、これらの番組は、原発の危機、放射能の危険性を独自の調査で明確に訴えていた。

浪江駅近くの自宅から、赤生木という原発から離れた場所の集会所に避難している人たちに、実はそこが自宅よりはるかに強い放射線にさらされた場所、ホットスポットであることを知らせたのも、この番組のスタッフと研究者だった。政府は、その数字を知りながら、公表していなかったのだ。科学者の具体的なデータを見せられた人びとは、そこで初めて真実を知り、避難場所を移動することを決意する。しかし、その時には、すでにかなりの被爆を受けてしまっていて、新たな避難場所では、自衛隊による除染を受ける必要があった。

一元化の掛け声のもと、事故後、政府機関、国の研究機関が事故対策に「動員」され、自由な調査は禁じられている。これらの番組の研究者である木村真三氏は、厚生労働省所轄の研究所に辞表を提出して、原発事故後の福島の放射線祖先の実態を調査し、ここに発表しているのだ。

ETVは実によく頑張っている。まだ再放送もあるだろうし、あるいはネット上でも動画が見られるだろう。それをぜひ見て欲しい。と同時に、この記事もまた、放送に載っていない様々な事実を教えてくれ、改めて放射能汚染の実態を教えてくれるので、図書館などで機会を見つけてぜひ読んで欲しい。

その他にもルポ「『安全キャンペーン』に抗する福島の親たち」が、福島県放射線リスク管理アドバイザーに任命された長崎大学医歯薬学総合研究科教授山下俊一氏のとんでもない発言「科学的に言うと、環境の汚染の濃度が、毎時10マイクロシーベルトを越さなければ、全く健康に影響を及ぼしません。ですから、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。どんどん遊んでいい」を批判している。原子力安全委員会の中で、20ミリシーべルトを許容している委員は誰一人としていない、と安全委員会自体が認めているというのに。

なんと、この雑誌には、私の好きな内澤旬子さんが密かにイラストルポを連載しているのであった。し、知らなかった・・。
「世界」、なかなか侮れない雑誌である。

2011/7/17