「禁酒禁煙」山口瞳
山口瞳には、数年前、はまりにはまって、あらゆる本を読み倒した記憶がある。それでも、長年、週刊新潮に「男性自身」というエッセイを連載されていたので、大量の本が出ていて、全部を網羅しきれていないらしい。さらに、「男性自身」内から、テーマを定めてアンソロジーが組まれたりしているので、読んだモノやら読まないモノやら、ごっちゃごちゃになって、いつまでたっても、読みつくしたといえない作家だ。
征服感がないまま、だいたいわかったかな、と山口瞳に手を出すのをやめて、数年。夫が図書館から借りてきていたこの本を見て、また、むらむらと読みたくなってしまうあたり、やっぱり山口氏の吸引力はすごい。
ちなみに、御存じない方はいないと思うけど、山口瞳氏は、立派な男性です。お名前だけ見て、女性と思わないでね。相当、オトコっぽいオトコ、というか、本来私の好まない男尊女卑系の思想もかなりお持ちの方。でも、好きです。硬派です。硬派でありながら、繊細。こういうタイプに弱いんですよ、わたくし。
この本も、いつもながらの瞳節。ふと気がついたんですが、この方、ちゃんとオチを心得ている。落語の素養でしょうか。「ペンキ塗りたて」というエッセイが実によろしい。人様からいただいた、あまり気に入らない木製家具類をどうしたらいいかというと、ペンキを自分で丁寧に塗ると、見違えるように良くなる。さて、上手な塗り方だが・・以下、道具のそろえ方、ペンキの選び方、薄め方、実に丁寧に、手に取る様にわかりやすく、面白く教えてくれる。さあ、実際に小机を塗ってみましょう・・・。いいですねえ。二度塗り、三度塗りと重ねて、傑作です。一緒に塗っているかの様に楽しい。で、どんなオチが待っているかというと、まあ、これは読むしかないでしょうけれどね。
山口氏が、最後のエッセイを掲載して、その次の号が出る前に亡くなった、そのタイミングの見事さに唸ったことを思い出す。最後のエッセイを読んで、、死ぬんじゃないか・・と不安に思ったら、本当に亡くなってしまった、あの衝撃。そんな言い方も思想も、大嫌いなはずの私が、「オトコだなあ・・」と口走ってしまった。あんな人は、二度と出ないんだろうなあ。
2007/7/2