紙つなげ!彼らが本の紙を造っている

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている

2021年7月24日
206「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場」 佐々涼子 早川書房

たぶん、私は紙がないと生きていけない。新聞を読み、本を読み、メモを取る。その全てが「紙頼み」である。だが、それがいったいどこから来ているのか、今まで考えたことなど一度もなかった。

日本製紙はこの国の出版用紙の四割を担っている。その会社の主力工場が石巻にある。2011年3月、工場は津波に飲まれ、ずたずたに引き裂かれた。震災から半年後、工場は復活する。廃工場になる、復帰は不可能だと言われていたのに、従業員たちの必死の努力により、驚くべき早さでマシンは再稼働を果たす。

工場がどのように被災し、従業員たちがどのように避難し、その後を過ごし、復興を目指して行ったのか。それはそのまま、震災の現実でもある。目の前で流されていく人、崩壊した家の中で焼け死んでいく人を助けられなかった後悔と衝撃。食料も物資もない日々の疲労と憔悴。

あれから四年が経った。私たちはなんと物忘れがいいのだろう。関西にいた私は揺れひとつ感じないまま、恐ろしい現実と、何一つ変わらない生活の狭間で戸惑い恐れ怖がっていた。それを私はやっと思い出す。

私が毎日読んでいる本を構成している紙は、もしかしたら石巻から来たのかもしれない。あの復帰したマシンで作られたのかもしれない。薄く、匂いの良い、文字の見やすい、手触りの良い紙。それは、沢山の人の努力の末に作り上げられたものなのかもしれない。

震災から復帰までを見事に描き通した素晴らしいノンフィクション作品である。
  
2015/3/24