絵本をとおって子どものなかへ

絵本をとおって子どものなかへ

2021年7月24日

「絵本をとおって子どものなかへ」 松井るり子

松井るり子さんは、もうずいぶん前、子供達がごく小さいころから、人生の師みたいに感じている人です。出会ったのは、「ごたごた絵本箱」という本が最初で、たくさんの絵本、児童書が紹介されていましたが、文中にあふれてくる子どもへの優しいまなざしに心打たれたのを覚えています。

お父さんに「だいじ子、だいじ子」とかわいがられ、大事に大事にされて育った思い出をどこかで読んだことがあります。愛情を一身に受けて育つと、こんなにまっすぐで温かい心がもてるのだなあ、とうらやましくも思い、また、自分もわが子に少しでも「だいじ子」と伝え、こんな風に育ってほしい、と姿勢を正しもしたものです。(すぐに忘れて、叱りつけたりしてましたけどね・・・。)

この本にも、たくさんの、教えられたこと、心に止めておきたいな、と思ったことがありました。少し、引用してみますね。

小さいころからがんばって学業を修め、一人前に働いていた女の人が母親になると、これまで勉強した事はなんだったんだろうと淋しくなると思います。でも子どもを育てていると、勉強することが次々とでてきて、今までの私は、このための「助走」をしていたと考えることさえできるようになります。それまでは机上の勉強でしかなかったものが、実践を伴うものになります。

子どもを育てるって、こんなにたいへんなことだと思いませんでした。自分の時間が全然持てなくて、本を読んだり、ゆっくり考え事をすることさえ出来ません。社会との関わりも閉ざされて、自分がどんどんダメになって行きそう・・と思ったこともありました。でも、ふと気づくと、目の前の子どもは、私にいろんなことを教えてくれます。子どもという存在を通して、今まで知りもしなかった、考えもしなかった世界が広がりもするのです。その場所でも、学び、成長する事は、いくらでもある、と気づいてから、子育てはずいぶん楽しく、やりがいのあるものになりました。

私に似たのか、うちの子どもたちもすいすいっとたくさんお友達を作って、いつだってにぎやかで楽しい、というタイプにはほど遠く、苦労するねえと思ってみています。でも心配しません。友達は少人数で構わないからです。
その昔、まずは大勢友達を作って、大勢の異性にもてないと、特定のボーイフレンドも持てないし、結婚もできないだろうと思っていました。今、子どもたちもそう考えているらしいのですが、そこが初心者ね、と思います。この人の子どもを授かりたいと思えるほど好きな人を一人見つけたら、他の異性にもてなくても、いっこう構わないのでした。

「心配しません」と言い切ってしまう強さはあっぱれです。うちの子たちも、同じに苦労していますが、ついつい心配してしまう私です。考えてみたら、私自身、友達は少数精鋭だし、夫と出会えたのは大ラッキーで、他のどんなにたくさんの男性にもてても、あまり意味はなかっただろうと思います。

大人は子どもを困らせてはいけない。だから子どもの前では泣かない。子どもは安心して泣いていい。大人は子どもをいつでもかわいがれるように待機していて、必要な時にはいつでも惜しみなく抱っこする・・などなど。子どもの前でつよい大人でいる仕事が、一番大事な仕事だなあと、この頃思っています。

子どもの前で、つい感情的になってしまうのは、甘えているのかもしれないな、と私も思います。親の感情をぶつけられた子どもがどんなに困るかは、実体験から知っています。でも、気がつくと同じ事をやってしまいそうな自分に気づきます。あれしろこれしろと細かく教え込むことよりも、ガミガミしつけることよりも、子どもをまず安心させることが、一番大事なお仕事なんですね。確かに、私が子供時代、ほしかったのは、そういう親だったのだなあ、と今は思います。でも、それって、とても難しいことですね。

松井るり子さんの本はどれも、読んで楽しい児童書をたくさん教えてくれます。読み聞かせのネタ探しに苦労している私には、それだけでもありがたいのに、それと同時に、子どもへ向かう姿勢を、振り返っていろいろ考えることができる、一粒で二度おいしい、素敵な本なのです。

2007/3/7