草薙の剣

草薙の剣

2021年7月24日

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「草薙の剣」橋本治 新潮社

「九十八歳になった私」を読んだばっかりだけど、どっちが先だ?と調べたら、「草薙の剣」があとなのね。だから、順番通りに読んだわけだ。橋本治って、天才。あれもすごかったが、これもすごい。あっちは九十八歳になった自分の話だけれど、こっちは10代から60代まで10歳ずつ年齢の違う男たちを主人公に、戦前から現代までを描き出している。ごく普通の男たちの普通の日々を通して、ちゃんと時代を、歴史を、リアルに描き出している。

子どもの頃から不思議だった。学校で習う歴史の話は、国を動かしている人や、有名な何かを作り上げた人のことばかりで、ごく普通の、どこにでもいる人たちが何をして、どんなふうに生きていたかはあんまり教えてくれない。毎日何を食べて、どんなことをして、何を考えていたのか、誰も教えてくれないなあと思っていた。本当は、そういう人たちのほうがずっとずっとたくさんいるのに、偉い人たち、立派な人たち、有名な人たちのことばかり。私がその時代に生きていたら、絶対にその人達の仲間じゃなかっただろうに。

この本は、ごくごく普通のどこにでもいる、立派でも偉くもない男たちばかりが登場する。それもかなり沢山の人が重なってでてくるのに、一人ひとりがすごくリアルだ。そして、時代の空気がちゃんと感じられる。私も覚えているその時代の息苦しさや、ドキドキしたり困惑したりした感覚がそのまんま蘇ってたじろいだほどだ。歴史って本当はこういうものなんだろう。

あくまでも男たちが主人公なんだな。まあ、橋本治は男だからそうなんだろうが、女の側から同じ世雨に描いたら、またちょっと違っていたかもしれないという気はする。少しだけ、母親や妻として登場はするけど、リアルさは男に負けるからなあ。

そうやって、この国は歩んできた、としみじみ思う。よかったとはあんまり思わないし、これからにもそんなに希望もない。でも、その中でできることをしながら生きていくしかないんだなあ、としみじみ思う。今までも、これからも、こんなふうに、人は歴史を重ねていく。できれば、これ以上ひどくならないといいのだけれど、と願いながら、生きていくしかないのだなあ。

2018/8/18