言い訳

2021年7月24日

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「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」ナイツ塙宣之 集英社新書

 

お笑いが好きである。と言っても、最近は少し落ち着いてしまった。十年くらい前は、それはもう、お笑いに身を捧げるくらい好きであった。中でもM-1クランプリは最高で、全てにおいて優先すべき一年の重大行事であった。前期M-1については全部の大会を見ているし、DVDで何度も見直している。予選の段階から勝ち上がり具合をチェックして、今度はこのコンビが上がってくるのでは、なんて予想までしている時期もあった。途中、中断して、かなりテンションは下がったが、後期大会も一応全て見ているし、いまもやっぱり好きである。
 
塙宣之はナイツというお笑いコンビのボケ担当である。真面目な顔をして、いろんな勘違いを繰り広げるネタが定番である。M-1では決勝に残ったことがあるが、優勝はしていない。が、紆余曲折して、今はM-1の審査員の一員である。甲子園で優勝しなくても監督として舞い戻ったみたいなもんか。違うか。
 
この本は、最初のM-1から今まですべての大会について、非常に丁寧に詳しく鋭く漫才について分析、説明している。オンタイムでずっと大会を見続け、自分なりにあれこれ考えてきた私には、そのひとつひとつが非常にエクサイティングなまでに面白く、興味深く、感心するものになっている。疑問に思っていたことに、はっとするような回答もされているし、そうだったのか!と目を見開くような事も書いてある。ああ、これ、ひとつひとつの大会のDVDを見ながら、ここの、これの話ね!!と、塙氏と語り合いたいくらい、ぴたっとわかる、のである。
 
笑いはくだらないものではない。深く考え、追求し、あるいは考えることをやめて自分という人間で勝負し、魂を言葉に乗せ、あるいは流れに身を委ね、あるいは生きることそのものが笑いとなる。ただ笑わせる、ということのために人生をかける人たちがいて、その人達の姿そのものに心打たれ、涙を流して笑う人たちがいる。食べて寝て働くだけが人生じゃない。文学も美術も音楽も演劇も人には必要で、それと同じ様に、あるいはそれ以上に、笑うことだって必要なのである。
 
なんかいい本読んじゃったなあ、としみじみ思った。
 

2019/11/14