「雉猫心中」 井上荒野 マガジンハウス ９
井上荒野さんは「切羽へ」の不思議な空気が好きで、何冊か読んだ。これは、図書館で通りがかりに目に入って、借りてきた。うーん、でも、あんまり好きじゃないかも。
結婚している男女が、それぞれの家を訪れて、不倫する。んでもって、最後にどうなるか、というおはなし。なんて書いちゃうと、実も蓋もありませんなあ。
不倫とか、官能とか、私の不得意分野なんで、そもそも選んだのがまずかったのかもしれないけれど。文章はうまいなあ、と思うしぐいぐい引っ張られるのだけれど。最初の方は女性の視点で、次の章が男性の視点で書かれていて、その男性の章に入った瞬間に、冷めた気がした。
同じ場所で同じ時間を過ごしていても、それぞれに感じること思うことはぜんぜん違う、ってのは私も知ってる。そうなんだろうなあ、と思う。でも、体は濃密に関わり合っているのに、心が全然すれ違っている、という感じが、なんだかつまんない。こういうのを、恋愛とか、不倫とかいうのなら、私、いらないもーん、って思う。わざわざ見せてくれなくてもいいよ、と。
私が一番気になったは、むしろ、あんまり出てこない、女主人公の夫だ。その夫の機嫌を損ねることを、彼女は極端に恐れている。何を言われるか、どんな態度を取られるか、いつもびくびくしている。物語の中には全く出てこないけれど、きっとこの夫は、彼女を何らかの方法で、ひどく傷つけているのではないかと感じさせられる。DV?モラルハラスメント？
そして、彼女の感情は、何か薄い布でもかぶせたような、ぼんやりした、まるで他人ごとのような、感覚で捉えられる。喜んだり悲しんだり怯えたりする自分を、もう一人の自分がぼんやりと見ているような。それは、夫のあり方と連動しているかのようにも感じられる。
私がこの本で惹きつけられたとしたら、むしろそこだ。本題とは少し離れたところなのだろう。いつ自分を傷めつけるか分からない人間のそばにいて、だんだん心が自分のものでなくなってしまっている女性が、だからこそぼんやりと、他人ごとのように、心の通わない不倫にずるずると陥る。
それは、そうなんだろうけれど。
でも、見ても、楽しくない、と私は思ってしまった。
きっと全然違う読み方をしてる人がたくさんいると思う。
2011/4/13