ツボちゃんの話 夫・坪内祐三

ツボちゃんの話 夫・坪内祐三

2021年8月8日

63 佐久間文子 新潮社

2020年1月、坪内祐三が亡くなった。雑誌フリークだった私はいろいろな雑誌でツボちゃんの連載を読んでいて、ちょっとめんどくさいけど注目すべき人だと思っていた。記事を見つければ必ず読んだし、読めば必ず面白かった。同じ大学に同じ時期に通っていた人なので、学生時代の思い出などが書いてあると自分の記憶とリンクした。

前の奥さん、神蔵美子さんの「たまもの」も読んでいた、というか見ていた。写真集だからね。神蔵さんがツボちゃんとまだ夫婦だった時に末井昭さんと不倫関係になった経緯が書かれていた。ツボちゃんは驚くほど寛容で、末井さんを尊敬しているとまで言ったという。この本の中でも、ツボちゃんは嫉妬をしない人だと書いてあったけれど、私には理解不能だった。そして、神蔵美子さんがあんまり好きではない、と思った。

ツボちゃんの書くものは深い知識に裏打ちされていて、偏屈なまでにまっすぐだった。口は悪かったし、友だちになれるかどうかわからないけれど、根は優しい人なのだろうと思っていた。この本を読むと、本当にツボちゃんはそういう人だったのがわかる。淡々と書いてあるけれど、作者がどんなにツボちゃんを大事に思っていたか、痛いほど伝わる。私もいきなり配偶者を失ったらどんなに寂しいだろうと気が遠くなるほどである。

医者嫌いだったツボちゃんは、もう相当前から体調が悪かったのに、見ないふりをしていた。もうすぐ死ぬのだから我慢してよ、とか僕が死んだら寂しいよとか作者の文ちゃんに言っていたそうだ。なら、医者に行っておけばよかったのに、生きていてくれたら良かったのに、と悔しい。でも、もう、間に合わない。

一人の人間を、愛と悲しみを込めて、でも冷静に描くとこうなる。すばらしい本であった。