あのころ、早稲田で

あのころ、早稲田で

2021年7月24日

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「あのころ、早稲田で」中野翠 文藝春秋

 

中野翠の大学時代の思い出が描かれた本。彼女の年代には宮崎学、呉智英、久米宏、田中真紀子なんかもいて、なかなか濃い時代だったようだ。その中で、活動家になりたいと思いながらも笑ったり日常を穏やかに過ごすことも捨てきれず、思い悩んでいたことが、正直に書かれている。
 
大学生の頃って正義感だけが強くて、自分が楽しむこと、自分の都合を優先することになんだか後ろめたさがあった。みんな同じなんだなあと思う。私は中野翠の一回り以上下だが、ここに描かれている大学の空気の残滓のようなものは私の在学中にもまだあって、デモとかストとかゲバルトは現実にはなかったけれど、まだ民生や革マルや中核が、学内でひっそり息づいていたものだ。
 
ここに登場する喫茶店や飲食店、書店などは私の頃にはまだずいぶん残っていた。でも、最近大学に行ってみたら、残っているのは蕎麦屋の三朝庵位のものだった。校舎もにょきにょきと立派なビルが整然と立ち並んで、あの雑多で猥雑な空気はどこにもなかった。小奇麗になっちゃったなあ、と嘆息してしまった。
 
あっという間にこんな歳になっちゃった、と思う。今からあの頃に戻してやろと言われても、丁寧にお断りしたい。中野さんも同じだと思う。若いのは、恥ずかしいことも、疲れることも、いっぱいあるからね。私は今が幸せだと思うよ。

2018/4/17