この世界の片隅に

2021年7月24日

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「この世界の片隅に 上・中・下」 こうの史代 双葉社

図書館で発見。以前読んだ「夕凪の街桜の国」がとても良かったので、迷うこと無く借りてきた。最初は上下巻が並んでいたので、その二冊を読んだのだが、なんだかつながりが・・・?と思っていたら、なんと中巻があったんですな。慌てて、後から中巻を借りてきて読み直しました。

第二次世界大戦中の、舞台は広島と呉。すずさんという若い女性が広島から呉に嫁いで新しい家族といろいろありながら、家族になっていく様子とともに、戦中の日常が描かれる。空襲も、原爆も、家族の戦死も、日常の中で描かれる。

戦争中、人々は悲惨な暮らしをしていた・・・のでもあるが、その一方では、ごく当たり前の日常が営まれていた。食糧危機や、命の危険があろうと、人は日々を当たり前に暮らす。苦しく、悲しいことがあっても、そこには当たり前に笑いがあり、助け合いがあり、愛情がある。

この本の凄いところは、悲惨なこと、苦しいことに焦点を当てていないということだ。どんな時にも、人は笑おうとする。前を向こうとする。恐ろしいことの向こう側には、お腹を抱えて笑うようなことも潜んでいる。すずさんを囲む家族は、悲しみも苦しみもいっぱい抱えてはいるが、毎日笑って過ごしている、過ごそうとしている。その温かさ、強さが胸にしみる。

互いにかつては胸に秘めた人もあった夫婦が、巡りあい、共に暮らす中で愛情を暖めあい、大事に想い合って生きていく姿に、私はしみじみと胸打たれる。生きることって凄いなあ、いいなあ、と思えてくる。

本棚の上に積んでおいたら、いつの間にかおちびも読み切っていた。面白かったんだって。戦争の話だけど、怖くはなかったらしい。悲惨な戦争話をきらうおちびも、この本は好きだったみたいだ。いい本を読めて、良かった。

2012/7/4