こんな映画が、-吉野朔美のシネマガイド

こんな映画が、-吉野朔美のシネマガイド

2021年7月24日

45「こんな映画が、吉野朔実のシネマガイド」吉野朔実 PARCO出版

追悼 吉野朔実なのである。

吉野朔実は「本の雑誌」に連載されていた漫画コラムを愛読していた。本業の漫画作品は、なんというか文学的すぎて、深すぎてついていけないところがあって、ちゃんと読んだことは、たぶん、ない。雑誌コラムは、読んだ本の感想というか、日々の生活と絡めた諸雑感というところだったのだが、独特の雰囲気があり、短いけれど印象的な良いページで、いつも楽しみにしていた。もう、二度と読めないと思うと悲しい。

というわけで、吉野朔実をちゃんと読んでみようかと図書館で検索をかけたら見つかったのがこの本。2001年に出版された本で、様々な雑誌に書いた映画紹介が100作ほど集められている。読んでいると懐かしい時代の匂いが湧き上がってくる。

私はあんまり映像型の人間ではないので、映画館に行くのは年間二、三回といったところだ。DVDを借りて見るのも、両手で足りる程度。だからここに乗っている映画はほとんど見たことがない。

驚いてしまうのは、100作ほどの作品のどれをとっても、実に鮮明にしっかりと説明していることだ。映画を、ものすごくちゃんと見ているのだなあ。そして、いかにも吉野朔実らしいものの見方がそこから受け取れる。映画を丁寧に楽しんでいたことがよく分かる。

吉野さんは北野武監督がお好きだったのだな。私は一作も見ていない。見てみようかな、と思わせられる解説がばかりである。その他にも、見てみたくなる映画がたくさん載っている。

「はじめに」に「年間に新作を100本程しか見ていないので、取りこぼしは山ほどあると思います」とあって、あっけにとられた。3日に一本見てたのね~。その他に書評漫画も書いてるから、本だっていっぱい読んでただろうし、いつ仕事してたんだろう。

こんな独特の感性をもった、静かな情熱を秘めた漫画家を失ってしまったことを、改めて悲しく思う。吉野朔実さん、安らかにお眠り下さい。

2016/6/15