ブルース、日本でワインをつくる

2021年7月24日

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「ブルース、日本でワインをつくる」ブルース・ガットラブ 新潮社

 

足利市に「ココ・ファーム・ワイナリー」というワイナリーがある。知的障害者のための施設「こころみ学園」を母体としている。実際に足を運んでみると、驚くほどの急斜面に、ぶどうの樹が並んでいる。ワイナリー見学も出来るし、試飲もできる。カフェではワインに合うおいしい食事も出来る。もちろん、多種多様の美味しいワインも一緒に飲める。とても幸せな時間が過ごせること、間違いない。
 
ココ・ファームはオーガニックのワインを基本としている。まだ日本では甘いワインが主流だった頃に、アメリカからココ・ファームに来て、食事と一緒に飲めるドライワインをつくるという方針を決め、ワイン造りを教えたのが作者、ブルースである。障害者たちと一緒に作業し、教え、サミットの晩餐会に選ばれるほどのワインを作り出したのが彼である。今では日本人女性と結婚し、一人娘とともに北海道で新たなワイナリーを作りつつ、ココ・ファームの一員としても働いている。
 
ブルースがどの様にワイン造りを覚え、こころみ学園と出会い、ココ・ファームの一員となってワイン作りをしてきたのかが描かれているのがこの本である。いわば伝記である。良いワインをつくるにはどうしたらいいか、を本の後半部分で彼は熱く語っている。印象に残ったのは以下の部分である。
 
科学的な方法でグッドワインはできますが、グレートワインはできにくい。グレートワインをつくるには、ある段階でそのワインを信じ、自分は一歩退いて、ワインがみずから成長するのを見守る姿勢をとることがだいじです。ワインが生まれるためのいい条件を整えてやったうえで、生まれたあとはワインみずからに成長をまかせ、邪魔をしない、それがだいじなのです。
 ワインづくりでその域に達する人は、めったにいません。ワインのつくり手は、つい手をだしたくなりますから。すぐれたワインを自分の手でつくって「名人」と呼ばれたいと望む、それは人間のエゴです。自然を信じ、自然にまかせるというのは、むずかしい。「なにもしない」ことのほうが「何かをする」ことよりもはるかにむずかしいのです。
 
             (引用は「ブルース、日本でワインをつくる」ブルース・ガットラブより)
 
これって、人を育てることとまるで同じじゃん、と思うわけである。信じて、何もしないで見守るって、なんてむずかしいんだろう、といつもいつも思っていた。なんだ、ぶどうも同じなんだな。ワインも同じなんだな。うちの子たちは良い発酵をして、美味しいワインになりつつあるのだろうか。そんな事をつい考えてしまった、馬鹿な親である。

2019/5/8