それは秘密の

それは秘密の

2021年7月24日

184

「それは秘密の」乃南アサ 新潮社

 

乃南アサ。なんか知ってるはず・・・と思って調べたら、「風紋」「晩鐘」という実に重く暗い小説を以前に読んでいるらしい。らしい、と書いたのは、恐ろしいことに、すっかり忘れているのです。読んだときは大いに衝撃を受け、深く考えたらしい形跡は残っているというのに。私の記憶力なんてそんなもんなんだ、とがっかりしました。
 
それはともかく。いろいろな状況下の人間の心理描写が中心となった短編が九篇収められています。ミステリアスななぞをはらんだものが多く、最後はちょっと驚かすような。でも、その驚きは、割にポジティブな前向きのものばかりです。それが私にはありがたい。
 
以前に読んだ2つの小説はどちらも重く苦しい物を最後に残したらしい。私の臆病な頭脳は、だからこそわざとそれを忘れたのかしら・・・と自分の耄碌ぶりを都合よく解釈したがる私。
 
話は大きく横に逸れますが。バカリズムがラジオでこんなことをしゃべっていました。彼はどんなに忙しくても、寝る前にある程度の時間を自分のためにあけているそうです。そこで彼は漫画を読む。新しいものばかりではなく、前に読んだ本を読み返したりもするそうです。「スラムダンク」や「ドラゴンボール」「グラップラー刃牙」など、何度読み返したことか、と。
 
最近気づいたんだけど、読み飛ばす部分があるんだよね、と彼は言います。スラムダンクで主人公が背中を痛めてバスケットボールから遠ざからなければならない部分とか、刃牙シリーズで主人公がやられそうになる部分とか。最初に読むときは、もちろんちゃんと読むけれど、次回からは、危なそうは部分は読みたくないからすっ飛ばしちゃう。もちろん、その部分が作品にとって重要であることは理解しているし、それがあったからこそ主人公は成長していくこともわかる。でも、読まない。だって、心配になっちゃんだもの、と。
 
そして気づいたんだけど、自分がコントを書いたりドラマの脚本を書くとき、スタッフにはらはらドキドキするための提案をもらうことがあっても、いやそれはちょっと、と却下することが多い。絶対に安心する終わり方、良かったな、と笑える終わり方ができるものしか書かない、と。
 
ああわかるわかる、と私は思ったんです。私もそうだ。人が死ぬミステリは嫌いだし、登場人物があまりに過酷な状況に陥るような物語は読みたくない。先があまりに見えない展開も疲れる。頑張って読みはしても、読み返したくない、と思ってしまう。
 
この本は、そういう臆病者の読者にとってはありがたい展開です。もちろんどきどきはらはらもするんだけど、最後にはちゃんと救い上げてくれる。ありがとう、助かったよ、とほっとして本を閉じられる。
 
もしかしたら、それが物足りない、と思う読者もいるんだろうなあ、とちょっと想像もつきました。

2015/2/15