たてがみを捨てたライオンたち

たてがみを捨てたライオンたち

2021年7月24日

142

「たてがみを捨てたライオンたち」白石弦 集英社

こういう小説を書く男の人が出てきたのか、と思った。

編集者で、あんまり仕事ができないタイプの既婚者、直樹と、離婚を経験したモテるタイプ、広告代理店勤務の慎一と、アイドルオタクのブサイクな公務員、幸太郎。この三人が交互に登場することで、男性が囚えられている男らしさの呪縛と、女性とわかり合えないことへの悩み、苦しみを描き出している。でも、最後は前向きなので、読後感はなかなか良い。

展開が早くて、飽きる隙がないから非常に読みやすいのだけれど、ただ、そんなに特別なことを描いているわけじゃない気もする。ここに勇気を持って描き出されたはずのことを、大抵の女たちはとっくの昔から知っているんじゃないかなと思うし、少数だけど男たちの一部もちゃんと気がついていて、たてがみにとらわれずに生きようと頑張っている、とも思う。

ただ、昔の文士を引きずっていた吉行淳之介のエッセイを読んだ後だと、隔世の感はある。

男と女は、所詮、他人同士だもの。だから、分からないよな、とニヒルに嘯くよりは、だからこそ、なんでも率直に話し合って、わかり合いたいよね、と考える人が増えるのは、嬉しいことだ。そういう意味で、良い小説だったなあ、と思う。

2019/2/27