つきよに

つきよに

2021年7月24日

208「つきよに」 安房直子 岩崎書店

「つきよに」「やさしいたんぽぽ」「青い花」「きつねの窓」「ひぐれのお客」の五編が収められている。

なるほど、安房直子らしい作品ばかりである。「つきよに」はとても短いけれど、温かい優しい物語である。

ところで、「優しい」ってなんなんだろうね、と思う。

「やさしいたんぽぽ」で、捨てられた子ねこにたんぽぽがミルクをあげる。花はやさしい心でいるとき、摘み取られても死なないのだという。子ねこはたんぽぽの花を首のリボンにはさんで電車に乗る。電車の中はたんぽぽの花をかざってしあわせそうなねこでいっぱいだ。電車は走りだす。その後ろには「光の国行き」と書かれていた・・・・。

「青い花」で傘屋の青年は、傘を持っていない女の子のためにわざわざ生地を選んで傘を作ってあげる。それは素晴らしい青い傘で、町中の人が同じ傘を買いに来る。青年は大忙しで、それまで丁寧にしていた傘の修繕を断るようになる。だが、ある日、町のデパートがレモン色の傘の広告を出すと、パタリと客足は止まる。そこへ、あの女の子が来る。傘の修繕を頼んだのに、と。店の片隅に置かれたその傘を青年はていねいに直し、女の子のところへ届けるけれど、そこに女の子はいず、ただ紫陽花の花が咲いているだけだった。

捨てられて、息絶えるしかないねこを「光の国」に届けることは優しさなのか。親切に作ってた傘が評判を呼び、それを注文通り作り、忙しさで修繕が後回しになるのは、やさしくないことなのか。

そんな因縁の付け方って無いでしょ、童話なんだから。とも思う。だけど、じゃあ、優しさって、何。一生懸命自分の仕事をした青年を呆然とさせてしまうのを、意地悪に感じる私は何。善意にあふれた、自分のできることを精一杯やる人間を、哀しい結末に導くのはなぜ。

生きるって思うとおりには行かないし、頑張っても優しくなれないこともある。切ない、哀しい、そんな思いを美しく描く。私は単純で物分かりが悪くって深い思考ができないから、だから、そういう物語が辛くなるのだろうか。なんだかよくわからなくなった。

2015/3/24