はじめての言語学

はじめての言語学

2021年7月24日

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「はじめての言語学」 黒田龍之助 講談社現代新書

夫が図書館で借りてきて、「これ、面白いよ」と薦めてくれた本。言語学?と最初は不審に思いつつ読み始めたが、これが面白いの。

「はじめに」という前書きの部分を読んだだけで、あ、この人は、とても面白いものが書ける人なんだな、とわかる。こんな具合に。

 もしあなたが「言語学は難しいものにちがいない」と想像しているとしたら、それはまったく正しい。およそ学問と名の付くもので、やさしいものなんて一つもない。言語学だって例外ではない。
でもこの本はあんまり難しくない。なぜならこの本は「言語学は一つの科目である」というつもりで書かれているからである。
科目というのは本格的な学問への入り口という意味である。高校にも数学や化学といったようなものがある。科目は学問と違って無限に広がっているわけではない。ある一定の内容をしっかりと押さえるだけでいい。だからそんなに難しいことにはならない。そしてそれを卒業したら、また先へ進めばいいのである。そういう意味で、まずは科目としての言語学の世界にご案内しよう。(中略)
わたし自身について少し。私も厳密な意味では言語学者ではない。でも専門はなにかと聞かれて、例えば「スラヴ諸語における両数の研究」など偉そうにいえば、相手は絶対に引いてしまう。そこで「スラヴ言語学です」などと答えてお茶を濁す。それでも「そのスラヴって何ですか」とさらに質問されたりする。そういうのを何百回と繰り返すのは面倒。そこでわかりにくいスラヴを省略して「言語学です」などと、もっと大雑把なことを言って日常生活を送っている。プロフィールを書くときにも、言語学者としておくとあまり突っ込まれないので便利である。でも本当はちょっと恥ずかしい。

言語学の世界では有名な例なんだそうだが、私たちは、虹が七色だと考えている。けれど、英語では六色である。 red,orange,yellow,green,blue,purple なんだそうだ。ところが、アフリカ南部ジンバブエの言語の一つ、ショナ語では、虹が三色と考えるのが定番だ。青っぽい色が一つ、緑色から黄色にかけての色が一つ、そして赤と紫を同じと考えて一つ。これだけではない。アフリカ西部のリベリアの言語の一つであるバサ語では、二色なのだ。紫、青、緑がまとめて一つ、黄色、橙、赤がまとめて一つ。

この例を読んだだけで、私はわくわくしてしまった。他にも、例えば日本語では「稲」「米」「ご飯」は別の単語だけど、英語じゃ全部riceだとか、英語のmustache,beard,whiskersは日本語じゃ全部「ひげ」だとか。あらホントだわ、と感心してしまう。

まあ、そんな風に、言語の世界に、新しい視点や発見が次々と表れるので、まるで冒険譚を読んでいるかのような楽しみがある。

けれど、読み終えると、本当に、この本に書かれていることは「科目」だったのだ、とわかる。学問の、入口に入るための取っ掛かり。そんなもんだ。だけど、言語って面白い、言語学ってすごい、と未知の世界への憧憬のようなものが自分の中に湧いてきているのを見つけてしまった。

2012/5/11