ほんとうのリーダーのみつけかた

ほんとうのリーダーのみつけかた

2021年7月24日

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「ほんとうのリーダーのみつけかた」梨木香歩 岩波書店

 

2015年、「僕は、そして僕たちはどう生きるか」の出版を記念して、書店で梨木さんが若い人たちに話をする機会があったという。この本は、その時の記録をもとに作られている。「僕は、そして僕たちはどう生きるか」は、そもそも2007年に理論社のwebページに書かれたことが元になっている。2007年から2015年、そしてこの本の出版された2020年まで、まさしく安倍政権下の時代にぴったりと合ったこの期間、梨木さんが非常な危機感をもって仕事に立ち向かっていた、ということがよく分かる。人前に出ることの嫌いな彼女が実は若い人たちに自分の声で訴えかけていた、という事実にほとんど驚いてしまう。
 
日本にはびこる同調圧力の強さと、それに屈することの危険を、この本は丁寧に説いている。吉野源三郎が「君たちはどう生きるか」を書いた昭和初期と今の時代の空気が似通っていること、そんな中で、私達がどうやって自分の意見を作り上げ、貫いていけばいいのか、ということを真摯に書いている。短くて薄いけれど、とても大事なことに満ちた本である。
 
 最近「インスタ映え」という言葉が流行している。スマートフォンなどで撮影した画像をインスタグラムとして日記代わりに発信し、その際の出来栄えを評価する言葉だ。(中略)
 「インスタ映え」という言葉には、人目を引くことに価値を置き、他者に評価してもらって初めて安心する、極めて主体性の希薄な日常が透けて見える。殆どが他者に消費されて消えていく日々。
                         
         (引用は「ほんとうのリーダーのみつけかた」梨木香歩 より)
 
この指摘は正しい。世の中にうじゃうじゃいる自分以外の人間、多数の人間に認めてもらうことこそが正しい、素晴らしい、素敵なことだと思い込むのは、実は自分の中に核がなく、自分で自分の正しさ、素晴らしさ、素敵さを定めることができないからにすぎない。私のことを誰よりもよく知っているのは私であり、その私が私を認めることこそが真実なのである、というごく簡単な真実を、なんと多くの人が、見失っていることか!大多数の人と同じであることに安心し、自分で物を考えず、大きな情報に流される、今という時代。それへの危機感を、梨木香歩はこの本に書いているのだ。
 
これを読み終えた前日、私は「半沢直樹」の最終回を見ていた。まるで時代劇のような勧善懲悪物ではあったが。だが、あれを見て喝采する多くの人たちが、なぜ、安倍政権に疑問を持たなかったのか、あの政権にNOを言おうとしなかったのか、が私にはわからない。権力を持ったものが好き放題することを許さない、というドラマは大好きなのに、現実世界で行われている同じようなことに寛大になれるのはなぜなのだろう。本当に、わからない。

2020/9/29