よく晴れた日にイランへ

よく晴れた日にイランへ

2021年7月24日

96

「よく晴れた日にイランへ」蔵前仁一 旅行人

 

この本が出されたのは昨年の春のことで、出版記念のトークイベントに行ってこの本を買い、蔵前さんにサインをしてもらった。サインは凝ったイラストがついていて嬉しかった。この本にはイランで撮った美しい写真がたくさん載っているのだが、イベントではそれらの写真や、それ以外の写真もたくさん見せてもらって、イランを旅行したような気分になった。色彩の美しい素晴らしい異国であると思った。
 
もっと早くに読みたいと思いながら、ずっと積んである本であった。期限のある図書館の本を先に読まねば、と思うと購入した本はいつも後回しになってしまう。「いつでも読める本」は「なかなか読めない本」でもある。
 
蔵前さんには恩義がある。小さな子供を抱えて家を出られない時期に、蔵前さんの出した雑誌や本が私を旅に連れて行ってくれた。家にいながらに、私は世界中を旅している気分だった。今もずっと読み続けている宮田珠己やグレゴリ青山に出会えたのも、蔵前さんのおかげである。
 
若かった蔵前さんも、もう六十になろうとしているのだなあ、と思うとびっくりする。名を成すこと、何かを成し遂げることよりも、世界中を自分の足で目と耳で確かめたいと思ったという彼の願いが、結果的に私の人生も支えてくれたと私は思っている。人生は一度きりだと言うけれど、その一度をこうした旅に傾けた彼の選択に私は共感するし理解するし感謝する。
 
イランは危険だと思われているが、少なくとも彼が訪れた場所は美しく、そしてどこにでも「親切なイラン人」がいて、驚くほどのホスピタリティでもてなしてくれた。物価は安く、治安はよく、食べ物は美味しく、風景は美しかった。けれど、それは、その時点、その刹那のことであって、事態は刻々と変わる。できるその時に行っておかねば、二度とはできない旅がある。そんなことも一緒に教えてくれる本であった。

2016/9/30