アイヌの権利とは何か

アイヌの権利とは何か

2021年7月24日

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「アイヌの権利とは何か 新法・象徴的空間・東京五輪と先住民族」

テッサ・モーリス=スズキ 市川守弘 北大開示文書研究会 〈編〉かもがわ出版

 

2007年、国連は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を採択し、日本はそれに賛成した。宣言は、先住民族の権利について、自決権をはじめ土地や自然資源に関する権利などについて規定している。宣言に賛成した国は、これらの規定された権利について、その実現に向けて法制度を整える国際的義務を負っている。
 
2019年、我が国でも「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ新法)が制定された。が、そこにはにはアイヌの権利、とりわけ先住権については全く触れられていない。アイヌ文化の振興、アイヌの伝統に関する知識の普及、啓発、そのための環境整備が推進されるとしているだけである。
 
「アイヌ文化の振興」とはアイヌ語や刺繍などの伝統文化を振興し、和人がそれを理解することを意味する。つまり、アイヌ文化について和人が理解することを目的とした単なる地域おこしが主眼となっているのだ。そして、その象徴的空間として企画された「ウポポイ」というテーマパークを東京オリンピック開催に間に合わせて作るということが目標とされた。アイヌの権利などは置き去りのままなのだ。アイヌの文化は、彼らの自然信仰に根付くものである。が、政教分離の方針により、文化理解は、ただ上っ面の体験学習のようなものになり、そこに込められた深い信仰は切り捨てられることとなる。それが、本当の「アイヌ文化の振興」といえるのだろうか。
 
1888年から1970年代にかけて、和人研究者によってアイヌ墓地からアイヌ遺骨が掘り起こされ、持ち去られた。アイヌの遺骨はコタンと呼ばれる集団によって共同的に管理されていたものだ。それら遺骨の返還を求めた訴訟がいくつも起こされている。ところが、新法で、その遺骨を象徴空間の慰霊塔に収めることも決められた。アイヌが、コタンへの返還を求めているのに、だ。例外的に掘り起こされた場所に返還する場合は、その遺骨の子孫であることを証明して請求せねばならないが、そもそも証明する資料も乏しい。かつ、コタンで共同管理していた遺骨を個人に返却するということそのものが、文化を軽視したやり方である。
 
蝦夷島で平和に暮らしていたアイヌから土地を奪い、狩猟権を奪い、差別し、遺骨まで掘り返し、それへの謝罪もなく、ただ和人が「理解」するためのテーマパークを立てて、それを文化振興とする。あまりにひどい施策である。
 
・・ということを、私はこの本を読むまで知らなかった。アイヌ新法が成立したということは僅かに知って履いたが、その内容にまで興味を持ったなかった、恥ずかしいことである。
 
マイノリティへの差別は全てに通じるものがある。あらゆる人がその権利を守られ、幸せに暮らすことができない限り、私達は安心して幸せに暮らすことはできない。そのことを、忘れてはならない。だから、この本を読むことは、私に必要であったし、知ることで、新しい視点を得て、また物事を見極めていく基盤となった。この本に書かれた内容を多くの人に知ってほしい、と私は願う。
 
 

2021/1/19