長い長い郵便屋さんのお話

長い長い郵便屋さんのお話

2021年7月24日

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「長い長い郵便屋さんのお話」カレル・チャペック 海山社

 

子供の頃、岩波少年文庫の「長い長いお医者さんの話」を読んだ。あれは、中野好夫氏の翻訳だったそうだ。中野氏の翻訳は素晴らしかったが、英語訳からの重訳だったそうだ。残念ながら、元になった本がチャペックの原作からはかなり「飛んだ」訳だったそうだ。チャペックの語り味をできるだけ再現したいという願いのもとに、チェコ語から翻訳されたのが本書である。翻訳者は来栖茜さん。
 
遠い昔に読んだきりだったのに、読み始めたら懐かしい思い出が蘇ってきた。
 
郵便局には手紙の封を開けなくても中身がわかる小人が住んでいて、温かい手紙、つまらない手紙、うそだらけ手紙などを読み当てられる。彼らは、手紙で夜な夜なトランプ遊びにふけっている。ある日、それを見つけた郵便局員が、とある、宛名も何も書いていない手紙の中身を小人に教えてもらう。それは、愛する人への求愛の手紙だった。が、小人に読める中味にも、差出人と受取人の名前しか書かれていない。そこで、その郵便局員は、その受取人を探す旅に出る。一年と一ヶ月めに、やっと偶然彼らを発見して手紙を渡し、若いカップルから郵便切手代だけを受け取る・・・。
 
名前しかわからない若い娘に、青年の温かい思いを伝えるため、国中を歩き回る郵便局員の話を、私は確かに覚えていた。郵便やさんて大変だなあ、と思っていたのだな、あの頃は。
 
その他にも、様々な、突拍子もない、想像力に溢れたお話が全部で九話。どれも暖かく、楽しく、不思議な物語だ。この世はなんだか面白く楽しく温かいところだ、と思えるような物語ばかりで、読み終えて、いい気持ちになった。

2019/1/28