アリ語で寝言を言いました

アリ語で寝言を言いました

131 村上貴弘 扶桑社新書

筆者はアリの研究者。「安住紳一郎の日曜天国」というラジオ番組にゲスト出演しているのを聞いて、この本を読んでみようと思った。

人が出現したのは1300万年前だが、アリは1億5000年前には出現している。地球上には1万1000種類、1京個体のアリがいるとされている。生物量は人間とすべての哺乳類を足した重さと同じ程度。アリは、地球上の大先輩であり、進化、適応のつまった宝箱だという。

巣でキノコを栽培して幼虫に食べさせる、農業を営むアリがいる。女王アリはたった一人で実家からひとかけらの菌を加えて飛行旅行に出て、落ちた場所で営巣し、幼虫を生む。飛行前にたった一度、交尾してその精子を体内に貯蔵し、その後ずっと卵を産み続ける。精子という生ものを腐敗させることなく体内に貯蔵し続けられるのはなぜか、まだ詳しいことはわかっていないという。その謎が解けたら、食物の貯蔵はとんでもない発展を遂げるかもしれないという。

アリはしゃべるんだそうだ。ごく小型の録音装置を開発してアリの所に置いて置いたら、まあしゃべることしゃべること。とりわけ中級クラスの働きアリはとてもおしゃべりだそうだ。「キュキュキュキュキュ」というアリ語を聞き続け、数え、分析し続けてそのまま寝落ちした筆者は、揺り起こされて思わずアリ語でしゃべっていたという。もし、アリ語を翻訳出来たら、いったい何をしゃべっているか、想像しただけでも面白いではないか。

ハキリアリというパナマに生息するアリが専門の筆者は何度も何度もパナマに飛び、滞在して研究を続けている。その間、軍隊アリに噛まれて傷だらけになったり、地面に寝転がったら様々なダニや虫に刺されてぼこぼこになったり、それ以外にも大変な目に遭いながら、森林や原野を駆け回り、アリを見つけては這いずり回って研究を続けている。ただただ、アリを知りたいという好奇心がそれをさせているわけで、こういったエネルギーが文の合間からもにじみ出て、読者をわくわくさせてくれる。以前「バッタを倒しにアフリカへ」を読んだときも同じような興奮があったのを思い出す。

アリの世界は奥深い。この本を読んでも、アリについての極意つぶしかわからないが、それだけでもものすごく興味深く、面白い。

基礎研究、基幹研究というものは、その場ですぐに役に立つものではない。いったい何の役に立つかはわからないが、知らないことがわかり、わからなかったことが解明される。それがいつの日か、人類の役に立つこともある、ものすごい進歩に貢献することもある、しないこともある。だとしても、知るということは、それだけで私たちにとって有益だし、何よりも、面白い。そういった科学的な研究をもっともっと大事にしないと、日本の学問は発展しない。どうか学問にもっと力を入れる国になってほしいと心から願う。