コドモノセカイ

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27 「コドモノセカイ」岸本佐知子 翻訳 河出書房新社

岸本佐知子は信頼できる翻訳家である。彼女の訳すものはたいてい面白い。この本は、子供にまつわるアンソロジーである。12編の短編が入っている。どれもテイストは違うが、面白い。

訳者あとがきが秀逸である。

町で子供を見かけると、私はいつも少し緊張する。たとえその子が笑ったり元気に走り回ったりしていても、それはうわべだけのことなのではないか、この小さい体の中では本当はいま嵐が吹き荒れているのではないかと想像してしまう。それは兵士をまぢかに見るのに近い感覚だ。このお方は今戦っておられるのだ。この人間界に登場してまだ日が浅く、右も左もわからぬまま、降りかかるさまざまな理不尽や難儀と格闘しておられるのだ。そう思うと、私はほとんど畏怖の念さえ感じてしまう。そして心の中でそっと(お務めご苦労さまです)と声をかける。敬礼する。
       (引用は「コドモノセカイ』岸本佐知子翻訳より)

岸本さんはわかってるな、と思う。子ども時代は楽ではない。暗黒の、つらく苦しい時代だ。大人は何もわかっちゃいない。そのことだけは、絶対に忘れまいと、子どものころから私はずっと思っていた。岸本さんもそういう人なのだと思う。子どもは戦っている。それを忘れない人が選んだ短編は、どれも子どもの心をちゃんと映し出している。

一番好きなのはエレン・クレイジャズの「七人の史書の館」だ。七人の司書に囲まれて図書館で17歳まで育った少女の物語。これはもしかしたらあなたであり、わたしである、とさえ思う。美しいラストに胸打たれてしまった。

表紙がいいのよね。子どもが集めそうなものがたくさん。その中に、小さいカエルがいるの。かわいい。