サハラ縦走

サハラ縦走

2021年7月24日

「サハラ縦走」野町和嘉

アフリカものは一時期好きで、よく読んだ。
でも、考えてみたら、私の読んだのは、バックパッカー物が主流で、ヒッチハイクとか、バス利用とか、あるいはリヤカー引いて、とかばかりで、この本のように、自分で車を運転した人の話は読んだ事がなかった。
様子が、全然違うのに、気づいた。

アフリカで、自分の車に乗っている者は、明らかに「持てる者」である。異世界のよそ者であり、富裕の者であり、略奪してもかまわない者ですら、ある。汚いバックパックを担いだ得体の知れない人物に与えられる感情とは、まったく別の対応が、そこには起きる。

乾きを逃れること、砂に埋まらないこと、略奪にさらされないこと、食べること、生き延びること。切迫感と焦燥感が強く伝わる。リヤカーを引いてサハラを行くような、無鉄砲な本を読んだ時に、これほど大変な感覚がむしろなかったことを思い出す。その地に生きて、生活する人と、日々触れ合って、言葉を交わし、水を貰い、食べ物を分けてもらい、少しずつ進む人間と、エンジンとガソリンの力を借りて、バリバリと進む人間の感覚の違いかもしれない。後者の方が、むしろ、得体の知れない世界で戦っている感が強いのは、よく考えると、わかる。

オアシスの枯れない井戸にきらめく水を指して、「お前の国にはこんな素晴らしい井戸があるか」と現地の青年に誇らしげに聞かれて、作者は、自分の国には雨が降り、水があふれている、と語る。年に数回、降り注ぐことがある、神の恩恵が、そんなにも頻繁にあると言う事実が彼は飲み込めなくて、呆然とする・・・。

イスラムの厳しい戒律が、実は沙漠の苛酷な環境で生きるために必要なものであることが、本書を読みながら、だんだんに腑に落ちてきた。環境は、人を左右し、生き方を左右する。

世界を見たい、と思う。こういう本を読むたびに、まだ、行き足りない場所が山ほどあると思う。生きているうちに、どれだけ、見ることができるだろう。

2007/11/8