バイトやめる学校

バイトやめる学校

2021年7月24日

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「バイトやめる学校」山下陽光 タバブックス

 

すげーな、ここまできてんのかよ。
 
と、のっけからお下品ですみません。この本は、正社員をやめるとかじゃなくてね、もう、バイトを辞めることをおすすめしてるんですよ。つまり、バイトで働くことをやめちゃって、好きなことだけして食べていくにはどうしたらいいか、を皆さんにお教えする本なんですね。
 
作者は、「途中でやめる」というふざけた名前の古着屋さんをやってたけれど全然売れなくて、しょうがないんでそれをウェブ上で紹介したら、いきなりじゃんじゃん売れ始めたんだそうです。2011年の震災で九州に避難して、そこで服を売って生活しています。基本、集めた古着を何着かコラボして手作りで新しい服をつくって、それをネットで売っています。彼は、働くのは嫌いだけど、服を縫うのは苦痛じゃないので、それを仕事にしたんです。スマホっていうのは便利で、家にいながらにして日本中の人とピンポイントで繋がれる。それを使わない手はないじゃん、ってわけです。そして、収入はほんのちょっとに押さえて、人を雇ったらいっぱい支払っちゃう。最低限食べていければいい、って姿勢です。
 
最近あった悲惨な事件の犯人が「楽して金が欲しかった」みたいなことを言ったらしいんですね。それから、世の中に蔓延してなかなかなくならない、いわゆるねずみ講的な、今はネットワークビジネスっていうんですか、あれなんかも、「楽してお金が手に入る」がキーワードらしいですよね。みんな、働きたくない。何にもしないでお金が手に入ったら、一番嬉しい。
 
この本も、ともすればそう読めちゃうんですよ。楽したい、働きたくない、仕事なんていやだ、好きなことだけしていたい。そんな感じがあって、最初、イライラしたんです。でも、なんかちょっと違う。儲けたい、とは思わないんですね。みんなが嫌いで苦痛だけど、自分は割に好きだ、大丈夫だ、というものを見つけて、そこんとこで頑張ってみたら?みたいな提言なんですね。そして、それは、ただ部屋に引きこもって自己否定に走っているような人たちに対して、「君の好きなもの、活かせるんだぜ?」というメッセージにもなっている。
 
この本を知ったのは、宮田珠己の書評です。彼も仕事辞めちゃった人だもんね。「めんどくさい」は人間の五大欲望のひとつである、と断言しちゃった人だものね。たぶん、この本の作者に共感するところはたくさんあるんだと思います。でも、そんな宮田さんは、結婚してお父さんになって、子どものサッカーにも付き合うし、家も建てちゃうし、本のプロモーションのためなら苦手なトークショーだってやっちゃうし、で、次々本も出してるし、結構働いている。働いてはいるけれど、彼にとっては、これは自分の好きを活かした生き方なんですよね。
 
うーむ。でも、読んでてやっぱり私は自分がおばちゃんだなあと思った。だって、みんながみんな、こうやってバイト辞めちゃって(バイトですよ、あなた。正業ですらないんですよ)自分の好きなことだけやって生きてこうとしたら、世の中むちゃくちゃになるじゃないですか。誰かが何かを生み出さなくて、どうして食べていける?と自分も何も生み出していない私が何を言ってるんだ、とは思うんですが。
 
ともあれ。部屋で引きこもってグジグジしている諸君はとりあえずこれを読み給え、とは思うんですな。これは、ひとつの考え方である。こういう生き方もある、ということで。

2017/12/7