ルポ ひきこもり未満レールから外れた人たち

ルポ ひきこもり未満レールから外れた人たち

2021年7月24日

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「ルポ ひきこもり未満レールから外れた人たち池上正樹 集英社新書

いったんレールから離れると元の社会に戻れない。仕事がない、行く場所がないためにひきこもりになる人が増えているという。収入のない子と親の高齢化が進み、親が亡くなって初めて分かる「8050問題」というのがあるそうだ。親が八十代、子が五十代になって世帯が行き詰まって親子共倒れになるのだという。

過疎地の秋田県藤里町では十一人に一人、離島の石垣島も十五人に一人がひきこもりだという。そんなにいるのか・・・と驚くが、周囲を見渡せば、家族にひきこもりがいるという人には結構な頻度で出会うから、それが現実なのだろう。

作者自身もひきこもり経験を持つと文中で述べられている。そんな作者が全国のひきこもりの人々と実際に出会い、いろいろなことを尋ね、寄り添い、リポートしたのが本書である。ひきこもりの人々が集まり、話し合える場をつくろうと様々な企画もしているという。

登場する様々な実例を見ると、ちょっとしたきっかけからひきこもりに転落したケースから、アルコール依存症と共依存の母の犠牲になったとしか思えない、家庭の環境の悪さが原因の人まで、様々なケースがある。どの人たちも、周囲から認めてもらえない、一人の人間として扱われていないということをひしひしと感じているようだ。派遣という仕事の形態が、この問題をさらに深刻化しているようにも見受けられる。就職できたと思っても、簡単に契約を打ち切られ、継続ができない。就労側も、なにかうまくいかないと、この仕事は向かないと思って早々にやめてしまう傾向もある。

なんで仕事しなくちゃいけないんだ?生きてるだけで十分じゃないか、という記述もある。たしかにそうなんだがなあ。でも、どうしたらいいのか、この問題をどうやって克服できるのか、この本を読んでも全然答えが見えてこない。一人ひとりに寄り添って個々に対応していくしか無いのだろうし、そんな簡単な解決法がないというのは間違いないんだが。

ひきこもりの人が見ている世界と、現実世界の客観的なあり方の間の齟齬は、どうやったら埋められるんだろう。「こう思われているに違いない」と「実際にはこう見られている」には大概、誤差がある。そこのギャップを埋める努力がない限り、ひきこもりの人を外に出すことは難しいような気がする。

最初に登場したひきこもりの人は、結局、自死してしまった。読み終えて、無力感が残った。ひきこもりは他人事ではない、という。私の家族だっていつそうなるかもわからない。それは、私の問題かもしれない。だとしても、じゃあ、どうしたらいいか、なんて全然わからない。踏み出す勇気を育む方策。親はいつだって子にそれを与えたいと思っている。でも、それってそんなに簡単じゃないよね。

2018/12/21