人生を変えた時代小説傑作選

人生を変えた時代小説傑作選

2021年7月24日

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「人生を変えた時代小説傑作選」

山本一力・縄田一男・児玉清 文春文庫

 

時代小説の名手六人の短編を三人の編者が選び抜いた文庫。私はもともと、菊池寛の「入れ札」が読みたくて借りたのだが、他の短編もそれぞれに読み応えがあって、久々に時代小説っていいものだなあと感嘆した。
 
「入れ札」は国定忠治の子分との別れのエピソードだ。追手を逃れて赤城山を出てきたが、関所を破り、これ以上、大勢ではいられないと踏んだ国定忠治が、お供に連れて行く三人をどうやって選ぶか、という物語。入れ札をするときの人々の感情が面白い。そして、心の潔さとは何か、を考えずにはいられない。
 
松本清張の「佐渡流人行」が、私には一番印象深かった。世間では女は嫉妬深いなどというけれど、体面や地位を重んじる男のほうがよほど嫉妬深いと私は思う。少なくとも仕事上で出逢うのは、男の嫉妬ばかりであった。そんなことを考えながらこの本を読むと、男の嫉妬、そして思い込みの恐ろしさにずるずると足を引きずり込まれるような感覚になる。松本清張はさすがだ。この短い文章の中、ただの一行も飽きさせることがなかった。
 
その他にも五味康祐、藤沢周平、山本風太郎、池之宮彰一郎の小品が載っている。どれも選りすぐりの作品だし、その後の選者三人の対談も面白かった。

2015/5/9