偶然の装丁家

偶然の装丁家

2021年7月24日

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「偶然の装丁家」矢萩多聞 晶文社

 

本の装丁家、矢萩多聞さんの半生記。
学校や先生に馴染めずに中1から不登校になった彼は14歳からインドで暮らし、帰国しては絵の個展を開き、いつの間にか装丁家になっていた。
 
そう書くと、ドラマチックで豊かな才能に溢れた特別な人間のように思うけれど、ごく普通に当たり前に日々を過ごす中で、彼は彼なりに成長していったということがよくわかる。
 
この本は、晶文社の「就職しないで生きるにはシリーズに収められているが、作者はむしろ「就職しても生きるには」をみんなは知りたがっていると感じている。「こうすると、こうなる」みたいな本じゃなくて、ちょっとした何かが、少しだけ楽にしてくれる、という話が書きたかったのだという。
 
目標を決め、そこに到達するために最も効率のよい道筋を見つけ、計画を立て、そのとおりに実行する。それが、最も素晴らしいことであるとわたしたちは教えられ、思い込んでいる。だけど、それだけじゃない、もっと別の道もあるし、たとえ踏み迷っても、きっと誰かが助けてくれる、なんとかなる。そんな風にちょっと思えるような本だった。
 
私も、少しだけ楽になった気がした。

2014/7/18