地図のない場所で眠りたい

地図のない場所で眠りたい

2021年7月24日

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「地図のない場所で眠りたい」高野秀行 角幡唯介 講談社

 

「謎の独立国家ソマリランド」で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を取った高野秀行と、「空白の五マイル」で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を取った角幡唯介。二人はともに早大探検部の先輩後輩なのであった。
 
探検部というものを最初に京都大学に設立したのは本多勝一だそうだ。大学の探検部出身の作家は結構多くて、この本の二人以外にも、船戸与一や星野道夫、高山文彦、関野吉晴、長倉洋海などがいる。
 
早大探検部では高野氏は割に有名人というか、一目置かれる先輩であったらしい。アフリカにいるという謎の生物ムベンベを追って調査を敢行し、それを一冊の本にまとめたことも評価されていたし、さらには留年の挙句、卒業しても就職なんてしないで三畳一間で缶詰食って生活しながら探検、冒険を続けている・・そのあたりがすごい、かっこいい、と思われていたという。(角幡氏証言による。)
 
いやいや。ムベンベなんてわけのわからん幻獣を探して大真面目でアフリカくんだりまで行って、一応一流と言われる大学を出たのに定職にも就かないで、狭い下宿ぐらしで貧乏生活って・・・・世間一般で言えば、高野氏は間違いなく負け組だ。だけど、探検部じゃ、しょうがなくって一流企業に就職しちゃった人のほうが負け組で、高野氏みたいな人が、羨望の的になる勝ち組。完全に逆転しているのがおかしい。
 
おかしいといえば、探検部はおかしい。次はどんな探検をするか、という企画書がつくられるのだが、「剣岳3000メートル化計画」なんてのが大真面目で出される。剣岳は標高2999メートルなので、そこにセメントとか担いでいって、3000メートルにしちゃおうぜ、ってどんだけお馬鹿なんだ。であるにもかかわらず、計画書にはものすごく高尚な理念が書かれていて、うっかり説得されかねないという。
 
探検とはなんぞや、みたいな討論も盛んに行われ、物事を根源から突き詰めると「もう探検なんてこの世界にはないんだ」という結論に達してしまうらしい。現に、東大探検部はそれで考えすぎて解散して廃部にしちゃったというから、笑ってしまう。
 
高野氏も角幡氏も、体を張って探検し、取材し、それを本にまとめている。が、彼らが最も大事にするのは探検したことその事実ではなく、文章で伝えるということなのだという。ものすごく危険な目にあったり、絶対に他の人が行かないところに行ったりしているけれど、彼らはあくまでも文筆家なのだ。そこんとこが理解されない、と二人が嘆いているのも面白い。
 
高野氏はものすごく頑張ったのに、あんまり評価されずに来たことを嘆いていたけれど、わが家じゃ高野氏の新刊は必ず「買い」である。そういうコアなファンは他にもたくさんいるはずだ。角幡氏は早くに認められたからラッキーだったな。
 
どうしてもお笑いを入れないと文章に乗れないんだ、という高野氏はいう。そこが、好きなところだ、と私は思う。彼はそれは照れがあるからだ、と言うけれど、と同時に、自分の位置を俯瞰して客観的に捉える心の動きがあるからこそ、それができているのだろうと私は思う。少し離れたところから見る余裕と心の強さ。それが、読者を安心させ、本の世界へ導いてくれる。
 
高野氏は、角幡氏は文学的で重厚でイケメンでかっこいいから、自分が引き立て役になるし、あんまり一緒に仕事したくない、と言っていたけれど、私は高野氏の方がよりかっこよく見える。のは、私の好みが偏ってるからだろうけれど。(もちろん、角幡氏もすきだよ。)
 
 

2014/8/18