夜明けを待つ

夜明けを待つ

2 佐々涼子 集英社インターナショナル

図書館から夫が借りてきて「つらい本だったが、今年のベストに入るかも」と言っていた。高野秀行が勧めていたらしい。なるほど、重かったが、深く心に響く本であった。

作者は日本語教師を経たのち、『エンジェルフライト国際霊柩送還士」で開高健ノンフィクション賞を受賞、ノンフィクションライターとして活躍している。本の題名は知っていたが、読んだのはこれが初めてだと思う。

静かで穏やかでしみ込んでくるような文体。本の前半はエッセイで、若い頃の思い出話や子育ての苦労、旅の話など。後半はルポである。

彼女は、日本語教師の経験から「ダブルリミテッド」という問題に出会う。海外から日本に働きに来た人たちの最大の問題は言語である。日本で生まれた子どもたちは、学校でも、十分に学習できない。親は日本語が分からない。子どもなんて教室に放り込んでおけば、いつの間にかなじんでしまう、という乱暴な考えの中で、言語が十分に育たない子どもが出来上がる。親の話す母語も、今住む日本語も、どちらも浅くしか習得されない。授業を理解できるほどの言語能力はないが、友達と交流はかろうじてできる程度。親とも深い話はできない。言語習得が十分でないと、概念というものも育たない。人は言語で思考するから、深く考えることもできない。

バイリンガルがもてはやされた時代があり、子育て中に周囲の子どもたちの多くは英語を習っていた。が、母語が十分に習得されない状態で第二言語を刷り込むことに私は抵抗があった。それは、こういう事だったのだな、と改めて思う。母語を十分に取得し、様々な概念が心の中に育ってこそ、人は深くものを考え、それを伝えることができる。浅い理解で二つの言語に引き裂かれることの弊害。

このダブルリミテッドの問題に向き合う日本語教師の姿が描かれる。言語だけでなく、文化、習慣、礼儀に至るまで、彼女は移民やその子どもたちに教え込む。そうやって、誇りや自信を育てようとする。「自信がある子は、困難に遭遇しても人のせいにはしないものです。でも自分に自信がない人間はすぐに環境のせいにする。」と彼女は言う。言語習得は生きる力と直結している。

難病の子供をもった父親の話も出てくる。生後100日足らずで我が子は亡くなってしまった。その時の悲しみ、苦しみを乗り越えようともがく彼は、僧となろうと修行をし、新宿の歌舞伎町でDVなどに苦しむ人たちの駆け込み場所で働く。だが、ある日、姿を消す。そこに至るまでの彼の道、そしてその後の彼の生活。それらが淡々と描かれる。人は、かつての自分の苦しみを乗り越えるために、今、目の前にある人を助けようとすることもある。つらかった子ども時代を乗り越えるために、子どもを幸せに育てたいと心から願う気持ちを私は知っている、と思う。だから、とても身にしみる。

「あとがきまで読んじゃったんだよ」と夫は言った。モノ言いたそうだったが、自分で読みたかった。読んで、ああ、と思った。そうじゃないかという予感はあった。

この本を読む人は、どうか最後まで、あとがきまで丁寧に読んでほしい。良い本であった。