天の鹿

天の鹿

2021年7月24日

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「天の鹿」 安房直子 福音館書店

 

安房直子さんの作品を読むのは初めてかもしれない。
 
鹿打ち猟師の清十さんは、人間の言葉を話す鹿に出会って、森のなかの不思議な鹿の市に連れて行かれる。金貨一枚貰って、そこで好きなものを買えるという。清十さんは嫁ぐことが決まった一番上の娘のために美しい首飾りを買う。次に、一番上の娘が、そしてその次に真中の娘が、鹿に連れられて市に行く。ふたりとも嫁いで、最後に残った末娘も、ついに鹿の市に行く日が来るのだが・・・。
 
兄弟姉妹では末の子が一番心が美しい、というのが昔話の定番だ。なぜなんだ?私も一応末娘ではあるんだけど、結構腹黒だぜ。まあ、それはともかく、優しい末娘は、今まで誰もそうしなかったのに、市に連れて行ってくれた鹿に優しい心遣いをし、慈しむ。
 
結末までここに書くのはよくないよな、と思うのだけれど、優しい末娘がどうなったかを読むと、なんでだ?と私は思わずにいられない。これを美しいエンディングというのだろうか。清十が「おう、おう」とわけの分からない声を上げて駆け出していったのが、私には切なくてならない。末娘は、しあわせだったのだろうか。だとしたら、なんでこんなに物寂しいのだろうか。
 
小川未明を思い出すような物語だった。子ども時代の私が読んだら、「だから、それで、どうなるの?」と聞いたような気がする。

2015/3/2