島へ免許を取りに行く

島へ免許を取りに行く

2021年7月24日

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「島へ免許を取りに行く」星野博美 集英社

「みんな彗星を見ていた」で星野博美は、五島列島を含む「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」をユネスコの世界遺産にしようとする動きに対する批判を展開している。この本は、それより前に、彼女が車の免許を五島列島の合宿生自動車学校で取得した時の話である。運転免許取得という目的により、彼女は五島列島と出会っているのだった。

以前にも書いたが、私は星野博美という人の書くものを面白いと思う半面、彼女に違和感を抱いている。非常に攻撃的で、彼女の思う正しさから外れる価値観に対してあまりにも許容範囲が狭い。その割に、受け入れられたい、認められたいという思いだけは人一倍強い。生きるのが大変だろうなあ、と思っていたら、案の定そうだった、という人である。

車の免許を取るにあたって受けた適性検査の結果は、まさしく私の読み取った彼女そのものであった。気分の浮き沈みが激しく、攻撃性(自己主張の強さ)、協調性の欠如、情緒安定性の危うさ。そして、下手に運動神経だけはいいために、自ら危険に飛び込むようなところがある、という指摘までドンピシャで、笑ってしまった。

そんな彼女が、何か達成可能な目的を持ってそれに対して邁進することで救いを求めるという行動に出た。どうせなら、景色のいいところで癒やされたい、という願望も相まって、馬を飼っています、教習の合間には乗馬もできます、という天国みたいな五島列島の自動車学校に合宿生で飛び込んでいったのである。

最初は楽しかった。読んでいる方も、である。いいなあ、老後は夫婦で五島列島の自動車学校に一緒に行って、一緒に免許とるのもありかな、なんて妄想すらした。だが、運転って過酷だ。星野博美に違和感が、なんて言っている私だって、かなり難ありな人格の持ち主であり、たぶん運転には非常に向いていない。彼女がいつまでも運転技術を取得しない、その苦悩がまさしく自分の不器用さとシンクロして、読んでいてだんだん苦しくもなっていく。だが、その中で、島に暮らすという現実に出会い、美しい海に癒やされ、変わらぬ人間関係の閉塞感に悩まされ、しかし、新鮮な魚介に感動し、馬と戯れ、いろいろな経験を経る中で、たしかに何らかの救済は行われていくのである。

16日で取れるはずの合宿は、さらに伸び、伸びに伸び、彼女は寮長とまで呼ばれるようになる。が、ついに免許取得の日は来る。だがしかし、五島列島の道と、東京の道は、あまりに違うのである。現実って厳しい。五島列島では、海に見とれないように気をつけねばならなかったのに、東京じゃ、溢れる車と人をさばかなくちゃならないのである。車の運転って大変。

やっぱり免許を取るのはやめておこう。というのが、最終的な私の読後感想である。星野博美さんは、やっぱり偏屈な人であったけれど、少しは好きになったかも。

2018/6/29