忘れられた巨人

忘れられた巨人

2021年7月24日

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「忘れられた巨人」カズオ・イシグロ 早川書房

 

アーサー王伝説が根底にある。アーサー王なんてしらんがな、と思いながら読んだのだが、読み終えて、そういえば子供の頃に「アーサー王と円卓の騎士」を読んだことがあったな、と思い出した。ランスロットという登場人物を思い出したのだ。が、ランスロットはこの物語には出てこない。この本に出てくるのはガウエイン卿という騎士だけだ。「円卓の騎士」にそんな人、出てきたかな?全く思い出せない。過去は忘れるものだ。
 
というわけで、この物語の大きなテーマは忘却である。愛しあう老夫婦が登場するのだが、いろんなことを忘れている。息子の住む村まで旅をすることになるのだが、その息子が本当にいるんだかどうだか、いるとしてもどこに住んでいるんだか、どうやって行くんだか、すべてが靄の中だ。が、不思議な確信を持って彼らは突き進む。
 
そこへさまざまな、前述の騎士や戦士や少年などが登場して、クリエグという龍を退治しなければならないらしいこともわかってくる。
 
物語はじわじわとしか進まないし、戦いのシーンはなかなかのグロにあふれているし、読むのがしんどい本であった。もともとファンタジー体質でない私が読むのだからしょうがないのかもしれない。が、つまらないかと問われると、そういうわけでもなく、かと言ってワクワク楽しいかと問われると、全然そんなこともない。ただ、じわじわと、不思議な世界にとらわれていく。
 
カズオ・イシグロだから、そのうちどんでん返しがあるかな、と思ったのだが。それがどうだったのかは、読んでのお楽しみということで、とにかく、じわじわ、じわじわ、ただひたすら物を忘れてしまうような物語であった。
 
ただね。忘れることって、悪いことばかりじゃないのかもね。
 

2016/1/22