恩送り 泥濘の十手

恩送り 泥濘の十手

30 麻宮好 小学館

夫のおすすめ。名前すら知らない作者であったが、とても良かった、第1回警察小説新人賞受賞作「泥濘の十手」を改題改稿した作品だそうだ。

江戸時代のミステリ。丙午生まれで親に捨てられた、貰いっ子のおまきと、旅の一座から逃げてきた盲目の少女、要、優れた目をもち、本物そっくりの絵を描ける亀吉、そして同心の飯倉信左の息子、信太郎。子どもたちが大活躍する物語だ。

もう、子どもたちがかわいくてさ、と夫が言うので読んだ。キャラクターが生き生きしていて、とりわけ子どもたちが素晴らしい。盲目の少女、要はおとなしいが一番切れ味が鋭い賢さを持っていて、今後が楽しみ。って書いちゃったけど、このメンバーで絶対シリーズ化できるからね。次回作をぜひぜひ書いてほしい。

子どもたち一人一人は複雑な背景を持っていて、それぞれに心に抱えるものがあるけれど、でも、その一方では子どもらしい明るさ、前向きなエネルギーに満ちている。そのバランスがとても良い。現実にはつらい、悲しい事実も明らかになる物語であるけれど、それでもきっと明日はよい日だと思えるような姿勢が根底には貫かれている。こういうのが好きなんだなあ。

まだデビューして間もない作家さんらしいが、これからが楽しみだ。

ところで本筋からは離れるが、この本で私は初めて「束脩(そくしゅう)」という言葉を知った。「束ねた干し肉。古く中国で、初めて師をおとずれる時、贈物として持参したもの。転じて、入門する時に持参する謝礼の金品。入学の時に納める金銭。」という意味だそうだ。「泥濘」は何となくわかったが、「ぬかるみ」のことである。これだけ長いこと日本語を使ってきても、まだ知らない言葉があるんだなあ。ましてや外国語がペラペラになるなんて無理ってもんだわ‥と思った。以上、蛇足でした。