掌に眠る舞台

掌に眠る舞台

158 小川洋子 集英社

小川洋子は久しぶりかも。この人の書く物語はものすごく変で妄想的で、でも深い本物感があって、その世界に引きずり込まれてしまう。彼女の作品を読んでいる間中、夢を見ているみたいな気持ちになる。ふわふわと静かな穏やかな、やや湿り気のある世界の中を漂うような感覚。

今回は舞台にまつわる短編が八編。どれも不思議な世界。一番最初は、父子家庭に育つ少女と、その子のために手提げや巾着を縫ってあげた縫い子さんの物語。特に親しくもない二人が、たまたま一緒に「ラ・シルフィード」というバレエの舞台を見にいく。そこに登場した妖精に手紙を書く少女と、それを見つめる縫い子。少女と縫子の想像の世界が絡まり合い、響き合う。小さな工場の立ち並ぶ、油臭い街の片隅に広がる、美しい場所。

帝国劇場に「レ・ミゼラブル」を全公演、見に行く物語もしっとりと美しい。劇場に住む「失敗係」の部屋を尋ねる話。そんな人がいるのかもしれない、どこかにひっそりとその人が住んでいるのかもしれない、と思えてくる。次に帝劇に行くのがなんだか待ち遠しくなってくる。

妄想は、力だ。こんな風に思いもよらない想像が広がって、人はとんでもない場所まで飛んでいくことができる。本を読むこと、物語を描くことの力をしみじみと感じさせてくれるのが、小川洋子だ。