日本語の謎を解く

2021年7月24日

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「日本語の謎を解く 最新言語学Q&A」橋本陽介 新潮社

 

この世にはたまに語学オタクという人たちがいて、何カ国語もの言語を学ぶことを喜びとしているらしい。やや怪しげな標準語の日本語と、かなりでたらめな関西弁に、中学卒業程度の英語、それに「ワタシハニホンジンデス」「アナタヲアイシテマス」程度のドイツ語しかしゃべれない私には脅威の人類である。
 
この本の作者も、英語フランス語イタリア語スペイン語中国語などたくさんの言語を操る脅威の人である。そしても、もちろん母国語である日本語への関心は並大抵のものではない。
 
高校の先生でもある作者が、生徒たちから寄せられる言語に関する素朴な疑問にまとめて答えることで日本語の謎に迫ったのがこの本である。日本語内だけの分析にとどまらず、各外国語、とりわけ中国ごとの比較によって分析されているのが興味深い。
 
寄せられた素朴な疑問とは、例えば
 
 
 
「赤い」「青い」と言うのに、「緑い」と言わないのはなぜ?
ハ行にだけ「パピプペポ」という半濁音があるのはどうして?
 
「氷」は「こおり」なのに、なぜ「道路」は「どうろ」なの?
 
 
「悲しいです」と言うのに「悲しいだ」と言えないのはなぜ?
「全然大丈夫」という表現は、日本語として間違っているか?
「雰囲気」を「ふいんき」と言ってしまう人が多いのはなぜ?
そもそも我々は「は」と「が」はどう使い分けているのか?
 
 
など。ぜんぶで73個である。
 
 
何となくこんな感じかな?と思っていたことから、おお!そうであったのか!と感じ入ることまで、各種取り揃っている。
 
ところで、私は某歌舞伎役者の「この役をやらさせていただきます」という発言にいつもいらだちを覚える。「やらせていただきます」だろ!!と思うのである。が、この本によると、「せる、させる」は変化の途上にあるのであって、最終的に一つにまとまっていく方向にあるらしく、「やらさせていただきます」でもいいじゃないかという方向性であるらしい。美しい日本語とは、正しい日本語であり、正しさが違えば美しさも違ってくる、というわけだ。たしかにそれはそうなんだがなあ。
 
歌舞伎というのは古典芸能であり、古き伝統を受け継ぐものである。であるからして、言葉というその芸術の根幹をなすものを、先に変化させちゃっていいのかい?とやっぱり私は思うのである。これが、トレンディ俳優やら、お笑い芸人だったら「やらさせていただく」でも結構なのだが、歌舞伎役者だったら「やらせていただく」と最後まで言い続けろよ、と思ってしまうのだ。ま、それは私の勝手な願いであって、叶うわけもないのだがなあ。しかし、彼のお父さんはそんな言葉遣いはしなかったよ。
 
 
 
 
 
 

2016/11/2