望遠ニッポン見聞録

望遠ニッポン見聞録

2021年7月24日

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「望遠ニッポン見聞録」 ヤマザキマリ 幻冬舎

「テルマエ・ロマエ」の作者による日本に関するエッセイ集。そもそも、ヤマザキマリとはいかなる人物か、と疑問に思っていたので、これを読んで謎が氷解した。17歳からイタリアに留学し、シングルマザーとなって息子を育て、今は夫もいてシカゴに住んでいる、らしい。

私は「おしん」をほとんど観たことがない。(余談だが、「踊る大捜査線」も「太陽にほえろ!」も知らない。)だから、日本人を語るのに、「おしん」を引き合いに出されてもよくわからないのだが、あのドラマが中東やアジアの人々の心を鷲掴みにしたのに、西洋諸国では、さっぱり受け容れられなかった、というのは、なんとなくわかる。

西欧女性のヒステリックシーンは映画の中の特別な演出ではなく、日常生活に極めて頻繁にあるものだ、という指摘は興味深かった。

私も実際17歳で初めてイタリアで暮らした家で、あのような猛烈な喧嘩シーンを目の当たりにしたことがある。最初は男性に罵倒を叩きつけられつつも大声で反論していた女性が、言葉の力では物足りなさを感じたのか、まずテーブルの上にのっていたピザを天井に向かって投げつけたのだ。ピザは一瞬天井に張り付いたが、すぐに下に落ちた。トマトソースが付着した天井に腹を立てた男性の大声に対して、女性は今度は椅子を振りまわし始めた。喧嘩の発端は女性の作ったピザのとうがらしが効きすぎているというものだった。そこまでエネルギーを費やして揉めるような内容のことなのかとも思ったのだが、そのまま行けは流血の惨事にもなりかねない様子に進展してしまったその争いを見届ける勇気をなくした私は部屋に引きこもった。そしてこれからこんな激しい人種のいる世界で行きていこうとしている自分の未来に何気に不安を覚えたのだった。

(引用は「望遠ニッポン見聞録」ヤマザキマリより)

うーむ。日本で、そんな喧嘩を観たことはないなあ。というか、そんな暴れっぷりを見せる女性って、めったにいないよな。そういうお馬鹿な男性ならいそうな気もするが。そう思うと、日本女性っておとなしいわよね・・・。

先日、久しぶりにけっこう混んでいる電車に乗ったのだが、混んでいるといっても関西である。東京のあの殺人的なラッシュに比べれば実に人間的な混み様で、それでも、これだけ人が大勢いるのに、車内がシーンとしていることに、ちょっとした感動というか驚きを覚えてしまった。日本人て、我慢強い。いいかどうかじゃなくて、そういう日本のほうが、ストレスに応じて大暴れするイタリアよりも、きっと私には住みやすいだろうな、と思ったのであった。

2012/9/29