本当の貧困の話をしよう

本当の貧困の話をしよう

2021年7月24日

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「本当の貧困の話をしよう」石井光太 文藝春秋

私はお金に困ったことがない。明日食べるものの心配をしたり、行きたい学校に行けなくて困ったり、雨露を凌ぐ場所がなくて途方に暮れたこともない。親との関係性に、ある種の葛藤はあったが、経済的になんの困窮もなく大人になるまで育ててもらったことには素直に感謝したいと思っている。

自分がそんなふうに育ったので、若い頃は、それが当たり前だと思っていた。高校に上がって、大学に行くのも当然だとさえ思っていて、その当時の女子の四年制大学進学率が13%程度であると知って後で驚いたものだ。それほど、私は世間を知らなかった。

たぶん、今の若い人も、自分が今いる立場からしか世の中を知らない事が多いのだろうと思う。若くて物知らずだった私のように。そういう人たちに、この本を読んでほしい。石井光太の本はいつだって痛くて辛くて重たいのだけれど、この本は、最後まで読みやすく、深く物事を考える切っ掛けを与えてくれる。

日本は、経済大国でありながら、貧困大国でもある。貧困大国である根拠は、「相対的貧困率」がもととなる。相対的貧困率とは、国民の等価可処分所得の中央値の半分未満の割合である。具体的には、一人世帯で年間122万円未満で生活している人たちが貧困層ということになる。日本の相対的貧困の割合は15.7%なので、国民の7人に1人が貧困層ということになる。これは、世界的に見ても、イスラエル、アメリカ、韓国、トルコなどについで10番目に高い数値だ。日本は貧困大国なのである。

この事実をまず胸に刻んだ上で、貧困とはどのようなものか、何が原因で、どのように人を蝕んでいくのか、そこから抜け出す方策は何か、ということを具体的事象をもとに説明しているのがこの本である。石井光太の今までの著作が、その説明の中に次々と生かされていて、あ、この話はあの本だな、と思いだしてはその重みと痛みがずしん、とくる。逆に言えば、この本を読んだ人は、それをきっかけに、そういった重くて痛くて辛い本にも、どうか頑張ってチャレンジしてほしいな、と思う。

自粛期間が長く続き、家でやることがもうないよー、とうんざりしている中高生の皆さんは、どうかひとつこの本を読んでほしい。そして日本の現実を知ってほしい。そこから、自分がどうするのか、は、ゆっくり考えればいいのだと思う。まずは、知ること。それが大事だと思う。

2020/5/20