某

2021年7月24日

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「某」川上弘美 幻冬舎

カズオ・イシグロに似ている、と思いながら読んでいたのだが、これ以前に読んだ川上弘美の「大きな鳥にさらわれないよう」にも同じ感想を書いていたのに気づいた。SFというか、なにか不思議な世界の物語である。

なんの説明もなく、不思議な存在の人が登場する。定期的に、別の人物に変化していく、変化すると、もう、全く以前の痕跡はなく、ただ、記憶はかすかに残っていたり強くわかっていたりする。女子高生になったり中年男性になったり、後には子供になったりもする。なぜ、そうなるか、は説明がないまま、物語は進む。

とどのつまりは、これは「愛の物語」なのだ、と最後には思う。照れちゃうね。でも、誰かのために生きる、ということがごく当たり前に、自然にできることが愛なのだとしたら、愛ってそんなにすごく特別なものではない。これは、長い長い時間をかけて、そこに到達するような物語なのだ、と思う。

結局、人は死ぬからね。人生に必要なのは、誰かに称賛されたり、たくさん財産を築いたり、羨ましがられたりすることじゃなくて、誰かを大事だと思って、その人のために生きたいと思えることなんだろうとつくづく思う。死ぬまでの間を、そういう思いで埋められたら、もう十分なんだ、と思う。

2020/6/20