永山則夫 封印された鑑定記録

永山則夫 封印された鑑定記録

2021年7月24日

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「永山則夫 封印された鑑定記録堀川恵子 岩波書店

昭和四十三年10月から11月にかけて、わずか26日間で四件の連続射殺事件が全国各地で起きた。犯人は当時19歳の少年。彼は後に「無知の涙」という本を出版し、ベストセラーとなる。後に死刑が執行された彼が生前にすべてを語り尽くした100時間を超える録音テープがじつは残されていた。この本は、そのテープを元に、なぜ彼が犯罪へと向かったかを追った本である。

読み終えて、あまりに悲惨な彼の生涯に、愕然としてしまった。という話をしたら、夫に、どんなにひどい環境だったとしても、同じように育った兄弟は人を殺していないんだろ、と言われてしまった。しかし、この本は、それに対する答えまでもが書かれている。

「秋葉原事件」を思い出した。だが、秋葉原事件の犯人は、まだ恵まれていたとすら思えるほど、永山則夫の幼少期は過酷である。彼は、親兄弟にすら、ほぼ覚えられていない。存在を忘れられながら、なんとか生き延びてきた。

永山則夫が捕まったあと、母親が一度拘置所に訪ねてきたことがあるという。だが、二人は何も話さなかった。母親は後に精神鑑定位に長時間の聞き取り調査を受けている。そこで話されていることは驚愕の内容ばかりである。だが、彼女はそれが驚かれるとは微塵も思っていない。彼女もまた、同じように育ったからだ。

悲劇は連鎖する。と改めて思う。ほとんど無力感に囚われながら、そう思ってしまう。子どもを大事に育てること、愛情をかけることはなんと大切で、なんと難しいことだろう。また、貧困は、なんと人を損ねることだろう。

教育に携わる人、政治に携わる人、裁判に携わる人は、みんなこの本を読んでほしいと思う。それにしても、裁判でこの鑑定書がほぼ無視されたことが、私は信じられない。裁判官が綿密にこれを読んでいたら、違った判決が出たのではないだろうか。

2014/4/21