絶滅危惧職、講談師を生きる

絶滅危惧職、講談師を生きる

2021年7月24日

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「絶滅危惧職、講談師を生きる」神田松之丞 聞き手 杉江松恋 新潮社

「講談入門」以来の松之丞である。書評家の杉江松恋が、すっかり松之丞にハマって、彼が何故、どのようにして講談師になったのかを聞き書きした本である。

神田松之丞の講談との出会いについては、ラジオで軽く聞いてはいた。が、この本で詳細を知ることになった。九歳のとき、父親が自死したことが、彼の人生を変えたこと、そこから芸人になると思いつめるまでが丁寧に描かれている。立川談志に夢中になりながらも、なぜ、講談師になることを決意したのか、大学の四年間を様々な古典芸能を見続けることに費やしたことなどが、論理的に説明されている。この明白な説明自体が、松之丞の講談のありかたそのものであるとさえ感じる。

絶滅危惧種とされる講談の息を吹き返すために、自分は呼び屋となって、師匠の松鯉などの本物の芸を聞いてほしいと彼は願っている。すべての行動は、講談のため、と断言している。

ラジオを聞くと毒舌が過ぎて、時にハラハラするし、実際に太田光や伊集院光をちょっと怒らせたりもしていて、大丈夫かよ、と思う。あれも、呼び屋だからなのか?根底には、人付き合いの不器用さみたいなものがやっぱり流れているような気もするが、どうなのだろう。

しかし、彼の口跡は素晴らしい。サラ・ベルナールはレストランのメニューを、ローレンス・オリビエは電話帳を読むだけで観客を涙させられたと言うけれど。神田松之丞は、悪口でも人を引き込んでしまうところがある。気をつけなはれや。

今のところ、松之丞は、最もチケットが取りにくい講談師だそうだが、いつか本物の語りを目の前で聞いてみたい。

2018/10/25