流れのほとり

2021年7月24日

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「流れのほとり」神沢利子 福音館文庫

 

「くまのこウーフ」や「ちびっ子カムのぼうけん」の作者、神沢利子さんの樺太での子供時代の思い出が描かれている作品。樺太は北方領土で、いまは訪れることができない土地だが、こんなふうに日本人が大勢住んでいたのだなあ、と改めて思う。
 
主人公は、炭鉱技師である父親の仕事のため兄、姉、弟ともに小学校二年生で樺太の奥地に移住した。国境もすぐ近くのその場所は美しい川のある自然豊かな場所だった。が、冬には魚を取るために氷に開けた穴に小さな子どもが転落して行方不明になったりもする、ひどい山火事も起きる。
 
父が炭鉱の重役であるがゆえに学校で特別扱いを受けることの矛盾に気づいたり、男子が女子を虐げることに疑問を感じたり、タコ部屋で重労働を課せられる人夫たちを助けたいと願って父親に言葉を濁されたり。世の中との関わりの中の気づき、成長も描かれる。
 
アザラシやトナカイに出会ったり、北斗七星に魅せられたり、おしっこの色に気づいたり、その後の彼女の作品に通じる様々な体験も登場する。
 
北の島での生き生きとした生活は新鮮だ。古い本なのでためらいもあったが読み始めるとリアルで身近で色彩の豊かな光景が目に浮かぶ。この夏旅したばかりの礼文島の光景が蘇ってくるようだ。
 
子どもに媚びることのないしっかりとした文章で綴られているので、ある程度読書力のある感受性豊かな高学年以上の子どもにはとてもヒットする物語だろう。

2015/9/17