猛狼猫の逆襲

2021年7月24日

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「猛狼猫の逆襲」山下洋輔 新潮社

 

昨年春に北関東に引っ越すまでは、毎秋、ご近所で開かれるジャズストリートに参加して、最後に神社の能舞台で山下洋輔のピアノを聞くのが定番だった。日中、色んな人のジャズを聞いて、最後に「おお、これぞ本物!」と感動して終わるのは、なかなか楽しかった。あれを味わえないのは、ちょっと寂しい。
 
この本は、新潮社の「波」連載記事を集めたものである。山下洋輔、もう77歳らしいのに、なんて忙しいの。海外も含めて、毎日あちこち飛び回ってドシャメシャと演奏しまくり、大学で教え、奈良監獄の保存運動までやっている。お元気だなあ。昨年には「西郷どん」にも出演されたらしいが、残念、見逃した。
 
楽譜通りにピアノを引くのが嫌で、無理で、だから今の稼業になったというのに、スタニスラフ・ブーニンから、モーツアルトの「2台のピアノのためのソナタ」をやらないかと依頼されて断ったのだそうだ。そうしたら「ゆっくりの第2楽章だけでも」と再度申し出があって、ちょっとやってみて、到底だめ、と自己判断して断ったとか。ところが、東京オペラシティのニューイヤー・コンサートで、ついに共演することとなり、第一部、二部はそれぞれのソロ、第三部はブーニンがドビュッシーのソナタを弾き、山下はどこにでも即興で入る、という段取りになったとか。そして、そこではついに、ブーニンがかの「肘うち」をやった!と言っても、最低音を、静かに両肘で押した、という。やるなあ。聞きたかった。
 
本文は、仲が良かったけど、亡くなってしまった人たちのエピソードも多々あって、そうやって年を取っていくのね、と思わずにはいられないのだけれど、今のところ、山下洋輔さん、お元気です。これからも頑張って少しでも長く、あの肘うちを聞かせてほしい。また、ジャズストリートにも行きたいな。
 
 

2019/5/15