百万回の永訣

百万回の永訣

2021年7月24日

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「百万回の永訣 がん再発日記柳原和子 中央公論新社

「抗がん剤は効かない」
「医者に殺されない47の心得」を読んで以来、近藤誠さんの理論をどう捉えていいのかずっと考えていた。週刊誌などで彼の特集があると読むようにしていたのだが、記事の中に柳原和子さんの名前が出てきたので、「百万回の永訣」を読んでみようと思い立った。

読んでいて、なんだか既視感が・・・と思って記録を調べたら、あらら、2006年に私、読んでいる。でもちゃんと覚えてないってどういうこと?つまり、当時はまだ癌治療が他人ごとでしかない問題だったということなのだろう。身近な問題として捉えると、同じ本でも受ける印象はこうも違うのか、と愕然とする。

柳原さんは、自身の再発癌の治療方針を決めるにあたって、日本中の第一線の一流の医師と相談をする。それが出来る仕事をこれまでしてきたからだ。どの医師も、自分の専門知識と経験にかけて、これこそが最も正しいやり方だ、と彼女に提示してくる。そのどれもが、違う方法なのだ。そして、そのどれもが、強い説得力と、同時に大きな賭けと諦めを伴っている。

専門家同士が討論もする。非難もしあう。互いを尊重し合いもする。そして、そのどれもが「正解」であるかどうかがわからない。そもそも、何を持って正解とするのか?苦痛に身を苛まれながら、長く生き延びることなのか、癌が消滅して、でも、体は打ち砕かれてしまうことなのか、いつもどおりの生活を穏やかに過ごして早々に命を落とすことなのか。癌とどう付き合っていくかは、極めて個人的な問題でもある。

一流の大学病院の医師がも良い医師とも限らず、素晴らしい論文を書いた医師が良い手技を持っているわけでもない。うでが確かではないけれど、患者の心に寄り添い、暖かいケアの出来る医師もいる。医師を不信の目でしか見ない患者と、患部しか見ようとしない医師の関係もあれば、人と人との関係もある。

医療は難しい。近藤誠医師の意見だけが正しい訳ではない、と、これを読んで改めて思う。何を選ぶかは、本当に人それぞれだ。

私たちは、いずれ死ぬ。それがどれだけ先なのか、すぐ近くなのか、その違いしかない。その中で、どんな風に生きてどんなふうに死いんでいけばいいのか。誰もがいつかは考えなければならないことなのかもしれない、と改めて思った。

2013/6/22