神様たちの遊ぶ庭

神様たちの遊ぶ庭

2021年7月24日

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「神様たちの遊ぶ庭」宮下奈都 光文社文庫

夫から勧められた本。「羊と鋼の森」で、この人の本をもっと読もう、と思っていたのに今になってしまった。

北海道の真ん中、トムラウシという場所に家族五人で山村留学した一年間の話。新得という駅から車で45分だって。新得は、夏と冬に一回ずつ行ったことがあるけれど、あそこから45分か・・・とちょっと気が遠くなる。そりゃ山奥だよ。鹿も、狐も、熊も普通にいておかしくないわ。

夫が北海道に移住すると言い出して、最初は帯広の予定が、トムラウシなんて深い深い場所になってしまって、でも、誰も反対しないでついていっちゃう。子どもは小学校四年と中学一年と中学三年だ。行った先は、小中学校が一緒になっている学校で、小学生が十人、中学生が五人。先生は小学校が三人、中学校が四人、それに合同の教頭、校長が一人ずつ、事務員が一人。これが夢みたいに楽しい学校だ。

ダイナミックな自然、思い切り楽しむ学校生活、みんなが友達、全校生徒が全力で取り組む行事。先生たちも、まず自分が楽しんじゃう、がんばっちゃう。ある種の理想だが、それを理想と感じる、あるいは楽しめる人とそうでない人がいることも、作者はちゃんとわかっている。

宮下さんは繊細な人だ。実は自分がパニック障害だということに途中で気がつく。行きたくてならなかったきつい登山を諦めたりもする。美しく厳しい自然の中で、自分を知ることにも直面する。

長男の高校進学に際し、残るか帰るか、家族で迷う、話し合う。最終的に帰ることにはなるが、みんな、トムラウシが大好きで、また戻ってきたいと願っている。現実を見極めること、壮大な自然とそこに生きる人達を信頼し、愛すること。家族それぞれの個性や思いが愛おしい。

良い本だった。学校生活に躓いたり、これからどうやって生きていこうと思い悩んでいる思春期の子どもたちにも読んでほしいような本だ。私も北海道に行きたくなっちゃったわ。

2017/9/6