私のように黒い夜

私のように黒い夜

2021年7月24日

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「私のように黒い夜」J・H・グリフィン ブルース・インターアクションズ

 

私の好きな高野秀行がブログで紹介していた本。1959年、黒人がどんな人生を送っているのかを体感するために全身を黒く変色させ、米国南部へ潜入した白人ジャーナリストによるノンフィクション。最初は重たいかな、と思いながら読み始めたが、実に面白かった。
 
どれだけ面白かったかというと、昨日電車移動しながらこの本を読んでいたのだが、あやうく乗換駅を乗り換え損なうところだったし、目的地で降り損なうところだった。おちびの受験のための学校説明会に行ったのだけれど、開始時間になった時、どうかまだ始まらないでくれと思ってしまったほどだった。
 
よく、思いやり深くあるためには、相手の身になって考えよ、などと私たちは言われるが、この本は、実際に、本当に、相手の身になってみた人の話である。薬と紫外線照射によって黒人と化した作者は、自分の姿を鏡で見てぞっとする。自分自身に親近感を感じない、という事実に出会うのだ。そこには、恐ろしいほどのリアリティがある。
 
ただ皮膚が黒くなっただけで、どれほど世界が変わり、人生が変わるかが明らかになっていく。1959年当時のアメリカは、こんな場所だったのだ、と改めて思う。今はここまでひどくはないのだろう、何しろオバマが大統領になったくらいだから。
 
だとしても、差別という物の本質は、時代を超えて変わらない、ということも改めてわかってしまう。自分ではどうすることもできないもののために自分が規制され、待遇される。それは、今でもあちこちにある出来事なのだ。
 
差別なんてものは今の日本にはない、と断言する若者にあったことがある。知らないとは恐ろしいことだ、と私はつくづく思ったものだ。
 
こんなふうに書くと、重く難しくやりきれない本のように思われるだろう。けれど、これは、見知らぬ世界に踏み込でいく冒険物語でもある。そして、思いがけない事実に次々と出会う驚きに満ちた世界を知ることができる物語なのだ。

2013/10/28