約束された移動

約束された移動

2021年7月24日

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「約束された移動」小川洋子 河出書房新社

 

小川洋子の物語は、奇妙で、美しい。不思議な世界にあっという間に引きずり込まれる。
 
落ちぶれたハリウッド俳優と、ホテルの客室清掃係。プリンセス・ダイアナと、病院の案内係。熱帯魚の水槽のコケを落とす子供と、遠縁にしてデパートの迷子係の女性。彼女にプロポーズする予定の若い男性と、彼にしがみつく見知らぬ老女。海に流れ着いた黒い子羊と、我が子を産めなかった保育園の園長。来日した、声の小さな巨人とその通訳。
 
奇妙な取り合わせ、奇妙な関係性。それを静かに、何も不思議ではないという姿勢で、丁寧に、無駄なく描き出す小川洋子。選び出された言葉はどれ一つとっても無駄ではなく、必要な場所にきちんと収められている。その美しさに、私はいつも胸打たれる。
 
ダイアナ妃の写真をネットで探してしまった。ダイアナの衣装が、こんなふうに大事に扱われる物語があったなんて。

2020/3/10