絵本でほどいてゆく不思議

絵本でほどいてゆく不思議

2021年7月24日

絵本でほどいてゆく不思議 
暮らし・子ども・わたし
」 松井るり子 平凡社

松井るり子さんの本は、付箋を片手に読まなくちゃ。
絵本が沢山紹介してあるから、読みたい本、手にとってみたい本をリストアップしたくなる。

松井さん、もう末っ子さんが高校生か。
いや、本が出たのが2007年だから、もう成人されてるわね。
子育ても、ついに、終わり。
そんな意識が、ちゃんと本の中にも現れていて、次に何をしようか、と静かに考えていらっしゃるのも伝わりました。
思えば、松井さんの最初のご本「ごたごた絵本箱」に出会ったのは20年近くも前のこと。

息子が小さくて、赤ん坊に振り回されて、やりたいことは何も出来ない、自分がどんどんすり減っていく・・・という感覚に苛まれて、自分がダメになっていく恐れをいだいていたものでした。
これでいいのよ、小さな子どもには、側にいる大人がひとりは必要。そして、子どもを育てるのはとても楽しくて大事な仕事。
そんなふうに、穏やかに教えてくれたのは、もしかしたら、子ども自身と、そして、松井さんの本だったのかもしれません。
振り返ってみたら、私は松井さんに、ずいぶんと支えられ、励まされながら、ここまで来たように思われます。

松井さんと私は、とっても似ているんだな、と、この本を読んで、改めて感じました。

当たってしまったときの疲労困憊を想像するだけで疲れるから、宝くじを買わないのも、同じ。
暮らして楽しい夫を引き当ててしまった強運も同じ。

おとなの男と女が公平に生かされることは大事ですが、それは子どもに必要なことが満たされて、初めて考えたいところです。何はさておき、未来に開かれた子どもが優先的に大事にされることが「公平」であるのは、大人たるものに共通の了解のはずです。そこを置いてきぼりにした、大人の男対女や、専業主婦対働く妻の公平論議の中で、子どもが取り残され、じゃまもの扱いされていくのが、気になります。

・・・という考え方に、私もほぼ同意するようになりました。10代、20代の頃の私なら、猛反発しただろうと想像がつきます。でも、私は、二人の子どもを育てながら、いろいろなことに気が付きました。人間として幸せなこと、豊かなことは、お金や社会的な地位や他者からの評価だけではないのです。ひとつの命として、生き物として、小さな子どもと寄り添う生き方がどんなに豊かなものか、二十年以上かけて、私は学びました。松井さんも、それを助けてくれたと思います。

今までの私のタペストリを見てみると、平凡なおばさんがかっこいい夫(ホント)と、よくできたお子さんたち(ホントだってば)に恵まれて、ラッキーに過ごしてきたように見えるらしくて、「いーわねー、まついさんとこは」と言われることがあります。そういう時は、ただにこにこ笑っています。
タペストリの裏を返してみたら、そのラッキーを織るための糸がおざおざ交錯しているばかりでなく、ぶち切れたところをようようつなぎ合わせて、かろうじてつじつまが合っているだけだったり、模様になりきれなかった挫折の無駄糸がからまりあってもつれてダンゴになり、一見きれいな色糸が汚物染めだったり血染めだったりするんですけど、それでもいいですか?と言いたいのをこらえています。
裏を隠しているわけでなないのですが、つらすぎて語れないこと、語れるほど整理できていないこともたくさんあって、話し出したら止まらないし、聞き手の首根っこつかまえて暴走する話を聞いてもらっても、あまりにも個人的すぎて、たぶん伝わりません。
(中略)
自分のタペストリの裏のつらさを知ると、隣人のタペストリにもまた、私には見えないつらい裏うちがあり、それでもなお私ににっこり優しくしてくださる、人間性の厚みへのイマジネーションが豊かになります。昔よりは、人様のありがたみを感じられるようになりました。

ああ、松井さんも年を経て、いろいろあったのだなあ、と深い深い共感を持ってこの文を読みました。中年以降の女性には、ほんとうに様々な苦難があるものよね・・・・。こんなネガティブなことをこの方が書くのは珍しいことです。ですが、そういう歳まわりに来て、正直に書いてくださることで、確かに救われる部分があると、同じ中年のおばさんである私は感じているのです。

さて。
この本を読んで、手に取りたくなった本をリストアップしておきましょう。

「3さいからのおとな。」ムラマツエリコ なかがわみどり
「おんぶはこりごり」アンソニー・ブラウン
「おさるとぼうしうり」エズフィール・スロポドキーナ
「クルリン」ミラ・ローペ ズージ・ヴァイゲル
「おじいさんならできる」フィービ・ギルマン
「ゆきのおしろへ」シビュレ・フォン・オルファース
「どうぶつさいばん ライオンのしごと」竹田津実 あべ弘士
「読む力は生きる力」脇明子
「タンゲくん」片山健
「ワニになにがおこったか」オリシヴァング
「エンザロ村のかまど」さくまゆみこ 沢田としき

以上引用はすべて「絵本でほどいてゆく不思議」より

2011/2/22