老後の資金がありません

2021年7月24日

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「老後の資金がありません」垣谷美雨 中央公論新社

 

喪中なので、新年のご挨拶は控えさせていただきますが、本年もよろしくお願いいたします。
 
新年の初っ端から、辛気臭い題名の本を読んでしまった。内容は、まさしく題名の通りだ。貯金が1200万円しか無い中年夫婦なのに、娘の結婚式に600万円かかるし、義父が死んで葬式になんだかんだと300万円かかって、しかも、姑への仕送りを停止する代わりに本人が転がり込んでくるし、と次々に困難が降りかかり、老後の資金は減っていく。主人公は50代後半の女性。ああ、もう、身につまされる話だわ。最近、こんな中年話ばっかり読んでる気がする。ぱーっとしないわねえ。
 
お金がないのに具体的なことを何一つ考えようとせず、困ったことはすべて妻におっつけて逃げる脳天気な夫に、自己主張のできない娘。しかも彼女は嫁ぎ先でDVを受けている様子で不安でならない主人公。お金持ちでなんの苦労もなさそうな華道教室の先生、お金がないといいながら、スッキリとした生活をしているように見えるパン屋の奥さん。色んな人が入り乱れて、人は見かけによらないものだということから、中年になってもなお母親の愛情を渇望する人間とか、DV、年金問題、リストラ、介護問題。ありとあらゆる現代人の抱える問題が登場して、ちょっと入れ込み過ぎじゃないの?なんだかテレビドラマ見てるみたい、と思う。
 
主婦ばかりが集まるサイトに行くと驚くほど渦巻いている夫や姑や職場や近所の人への不平不満。それらが全部この本に集結されているみたい。つまり、とてもありふれていながら、世の中では無いことにされている問題が全部言葉にされているのがこの本なのかもしれない。だから、「そうよ、そうよ、よく言ってくれたわ」と思う読者も大勢いるのだと思うけれど、いやいや。こんなにうまいこと展開しないわよ、と意地悪な私は思っちゃう。要素を入れ込めばいいってわけじゃないわよね。現実は、もーっともっともっと厳しいのにな、と思うばかりである。

2019/1/7